7〜8、8.5のネタバレもどきがあります。
あとお嬢様がブレイクさんの過去を知っている設定です。

ねがいごと

シンクレアにお仕えして、何年経っただろうか。幼いころからだから、もう随分長いことになる。当然、私の顔を知らない者はいない。

私より数年遅くではあったが、お嬢様専属のメイドが一人来たのを覚えている。お嬢様や私と比較的年の近い幼いメイドだった。
彼女とは、従者同士、話をすることも多かった。所謂親友、幼馴染という存在だ。仕事仲間、ともいえるだろう。

そんな彼女が、お嬢様の部屋から出てきたと同時、声をかけてきた。

「ねえ、ケビン。お願いがあるんだけど」
「まったく、唐突だな……。なんだ」
「剣を教えてほしいのよ。あなたは騎士の家系で、色々な剣を扱えるでしょ」
「扱える、というよりかは教え込まれたの間違いだと思うが…。理由を聞こう」

もし、その剣を、主君を守ること以外に使おうとしているのであれば、教えなどしない。
それではれば、教えてもいいかと思っていた。主君をお守りする者として、最低限の力はあるべきだと思うのだ。

「お嬢様をお守りするため……。何も出来ないメイドでは、居たくないの。剣を扱えるあなたを見てきて、うらやましいって思ったのよ」
「うらやましい?」
「ええ。だってあなたは、お嬢様の矛になれる。私は、矛にも盾にもなれないんだもの。ただのメイドよ。だから、教えてほしいの」

 

「―――ブレイク」
「……ん、どうかしましたカ、お嬢様ー?」
「いえ、あなたの目が虚ろだったので…。何かあったのかと思いまして」
「何かはありましたケド……、ふふ、それは内緒デス」

これは過去の話だ。自分の中に残っている過去の記憶。

自分がケビンとして生きていた時代は、今の時代ほどいいものではなかった。それは、今自分が持つ地位や立場的なものもあるのかもしれないけれど。

「ザクス、シャロン様とお茶をしているのに、意識が別の次元に行くとは…」
「いいじゃないですかー。たまーにそういうこともあるんですヨ、レイムさん」
「君の場合はたまに、じゃないだろ…」

レイムが呆れ返っていると、扉をノックする音がした。シャロンがどうぞ、というと姿を現したのはパンドラの制服。銀色のラインが入っているということは、それなりの位を持つ者だ。

それは、女性だった。この社会で、女性が表に出てくることはあまりない。というより、パンドラに女性の構成員はいただろうか?

「………これこれは、失礼した。シャロンお嬢様もご一緒でしたか」
「いえ、お気遣いなく、さん」

シャロンが紡いだ名に、ブレイクが動きを止めて凝視する。女性を見続けるのは失礼かと思ったが、どうしても驚かざるを得なかった。

その名前は聞き覚えのある名前だったから。幼馴染とも、親友ともいえた女性の名がその名だったからだ。

外見だけで言えば、その女性は、彼女とは思えない。少なくともこの世界は30年以上過ぎているし、シンクレア家は没してしまったのだ。彼女が生きている保証もない。

「そちらは、ザークシーズ=ブレイクか。契約の影響でシャロンお嬢様もあなたも姿が変わらないようだな。うちのマスターと同じなのだね」
「姉上、どうしてこちらに…」
「レイムさん、今姉上っていいましたよネ…?」
「あ、ああ…。ザークシーズは姉上にお会いしたことはないのか?」
「うーん、残念ながらハジメマシテですネェ。レイムさんのお姉さまでしたか。ザークシーズ=ブレイクです、レイムさんとは長いお付き合いをさせて戴いておりマス」
「……隻眼の道化師、か」
「ハイ? それが何か?」
「いや……、私の古い知り合いに隻眼の騎士がいたものでな。ふと、思い出してしまっただけだ。失礼した」

口調といい、外見といい、彼女とは似ても似つかない。それに何より、彼女はレイムの姉なのだ。そんな簡単に過去の知り合いに会えるはずがない。
ましてや、自分は罪人なのだから。

「…… さん、でしたっけ? 宜しくお願いしますネ」
「ああ、ルネットの実子ではないが、宜しく」
「……実子ではない?」
「姉上は、養女なんですよ。私より先にバルマ公にお仕えしていますし、チェインの契約者です。契約の影響で成長が止まっているので、私と然程変わらない年齢の姿をして…あだだだだッ、いい、痛いです、姉上ッ!」
「そのままだと実年齢を言われそうなのでな」

チェインの契約者で成長が止まっている上に、ルネットの実子ではない。これはもしかしたら、あり得るかもしれない。
だが、その名を紡ぐことは、まかりならない気がするのだ。罪人の名前など、絶対に。

「では、我らが主がお呼びなのでな、失礼する。レイム、行くぞ」
「は、はい」

レイムが慌てて廊下をかけて行くのを横目に見て、彼女は一言、呟いた。

「ケビンと言う名の隻眼の騎士の話を知っていたら、教えてほしい。私の探し求める情報はあまり落ちていないようだから」
「判りましたわ。もし情報が掴めましたらお伝えしますわね」
「宜しく頼む、シャロンお嬢様。彼の行方を =ルネットが探しているのではなく、が探しているということも、頭の隅においていただけるのであれば、幸いだ。それでは」

ぱたん、と静かに閉じた扉。確かに彼女は と言った。それはすなわち、自分と同じくシンクレアに仕えていたメイド。幼馴染。親友。

「……生きて、いたのか」
「どうなさいますの、ブレイク。彼女は……」
「……言いませんヨ。私がケビン=レグナードだなんて。相手にも迷惑がかかるじゃないですか」

ただでさえ、レインズワースに迷惑をかけているようなものなのに、これ以上のことなんて。

「ただ、彼女が生きていれば―――それだけでいいんです」

たいせつなおさななじみのきみが、いきているだけで、それでいい。

BGM / Contractor(梶浦由記)
2009/07/26

ケビンだと口調が違うんだよなあ。難しい。「わたし」のルビもひらがななんですよね。