レイニークオーツ 1

 先の騒乱―――傀儡戦争と呼ばれるそれは、もう、人々の記憶から消えようとすらしていた。私は知っている。その戦争で活躍した英雄たちを。
 私はその場所に居た。皆と一緒に戦っていたから。

○○○

 ふ、と目を覚ました。小鳥のさえずりがする。気怠い身体を起こして、伸びる。小さく欠伸をして自分に言い聞かせるようには言った。

「さーて……今日も一日頑張るか……」

 今彼女が住んでいるのはトレイユで、以前彼女が住んでいた聖王都とは違った雰囲気を持つ街。

 傀儡戦争終結後、彼女は旅をしていた。そして訪れたこの街が、とても気に入った。家を買って、この街に住む事にした。

  幸い、先の騒乱で世話になった蒼の派閥の召喚師であるミモザの後輩、ミントがこの街に住んでおり、この街での暮らしはすぐに馴染む事ができた。
 何より、彼女が最も馴染んでいるのは、街の外れにある宿の店主達、なのだけれど。

 この街で、は蒼の派閥から派遣された召喚師として『視察』の名目で住んでいる。『視察』だなんて体の良い、言い逃れの理由で、よくそんな理由を許してくれたものだと思う。

 昨日の夜、定期報告のために戻っていた聖王都から帰還したばかりで、まだ疲れは抜け切っていない。少しふらつきながら目的地へ向かうため、家から足を踏み出しすと、巡回中の駐在軍人に出会う。

「あ、グラッド、おはよ。朝早くから巡回なんてお疲れ様」
「ああ、……聖王都から戻ってたのか。お前もこんな朝早くからお疲れ様」
「正直を言うと暇で仕方ないのが事実なのですよ、駐在さん」
「それを俺に言うなよな。、『視察』って名目でただ住んでるだけじゃないか……」
「あはははは。これでも一応仕事はしてるのよ、ミントとは違ってどちらかと言うと実戦系だから、帝国だと軍人側に近いのかな。実際私は軍側と協力すること多いじゃない? それに、派閥内じゃ『成り上がり』だからって厄介者扱いだけど、一族の跡継ぎである以上は派閥としては追い出せないし」

 蒼の派閥にしろ金の派閥にしろ、名家出身の者が多い。金の派閥は特に貴族が目立つが、蒼の派閥には『成り上がり』と呼ばれる一般人の中から生まれた召喚師も結構居る。はその『成り上がり』の部類に値された人間だった。

「ミントは養子でもないし、名家の出身だし、派閥としても文句はないんだろうけどさ」
「けど……、はミントさんよりも使役できる召喚術は多いんだろ? それでもそういう扱いってされるもんなんだな」
「まあ……本来召喚術って家々の秘伝だし……。私は孤児院出身だから、直系じゃないのにってはよく言われるかな。それでやっかみをうけるのはしょうがないって思うもん。一番特化してるのは鬼妖界だけど、霊界もそこそこで何故か全属性使えるし……」
「派閥っていうのも面倒くさいんだなあ……。うちなんかは軍学校に入れば基礎を学ぶことはできるから、そういうのないけど召喚術が得意なのは本当に一部だけだし……」

 あはは、と苦笑気味に笑って見せるグラッドに、頑張れば出来ると思うけどな、と返す。確かに素質は必要だが、修練次第ではランクが上がることだってある。それはかつての知り合いを見ていての判断だ。

「鬼妖界は私の専門だから、何かあれば教えてあげるわよ。グラッドは召喚術自体は扱えるから、私は違法をしでかすわけでもないしね」
「そりゃ助かるよ。じゃ、俺は巡回の続きをするから」
「あぁ、引き止めて悪かったわね」
「いやいや、もう何ていうか、毎朝の日課になってるから気にするなよ。で、お前も一応女なんだから、色々気をつけろよ」
「『一応』って何、『一応』って?」
「え、俺なんか悪いこといった?」
「この天然ボケ!」

 がっ、と勢い良く足を踏んづけてやると、は街外れの宿へと駆け出していったのだった。

 

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2006/12/23,2012/09/22,2015/05/30