レイニークオーツ 3

「……しっかしまぁ、宿の評価を、ねぇ」

 双子に又聞きし、その事柄に呆れながらは出来立てのスープをすする。それがもう絶品で絶品で。今まで色々な料理を食べてきたが、この味に勝るものはないと思っている。高級レストランとは違った家庭的な味。それがとても美味しくて、不思議とほっとする。

「テイラーさんにも困ったもんだよ、ホント」

 そうライが言うのに対し、は、あはは、と笑って見せてふと思い出す。金の派閥本部に居る、金の派閥のあの人のことを。懐かしいな、何て思っていたら口元が緩みそうだった。

「……ねーちゃん、どうしたんだ?」
「へ?」
「いや、なんか凄い嬉しそうにしてるから」
「そう? あのね、金の派閥に知り合いが居るんだけど、その人が面白いの何のって。思い出しちゃって」
「蒼の派閥の召喚師なのに金の派閥に知り合いが居るのか!?」

 ライの驚きに、は逆に驚く。そうなったらリシェルたちと仲のいいミントはどうなるんだと突っ込んでやると、そうか、としぼむ様に椅子に座った。

「金と蒼は、一部の召喚師が仲が悪いだけよ。結構、そういうの噂になっちゃうし」

 あはははは、と笑ってやるとフェアもライも笑い出す。
 まだ15歳だというのに、二人で宿を切り盛りして。父親が関わっているせいで、厄介ごとに巻き込まれてしまうなんて。

「さて、お昼も美味しくいただいたし手伝いでもするか」
「よし、じゃあねーちゃん、手伝いの前に俺と勝負しないか?」

 にっと笑顔を見せて言うライに、は椅子を立つ。

「……ふふふ、負けて悔やむなよ、少年!!!」

 そういうはどこか、子供染みていた。

○○○

「……はぁっ!!」

 最後の木を刀で真っ二つにする。それと同時、「ちくしょー!!」とライの声が聞こえてくる。

「はははは、まだまだ修行が足りんな、少年?」
「ねーちゃん……、やっぱり強いよ……」
「そうやって敗北感を味わいたくなかったら、私に勝負吹っかけなければいいだけの話じゃない?」
「いや、絶対勝つ。勝てる日があるとオレは信じてるんだ!」

 途端、まるで燃えるかのようにライの目つきが鋭くなるとは呆れるしかなかった。彼に追い越されるには、あと何年かかるだろうか。

「しっかし、料理の腕は本当に凄いんだから、私と張り合わなくてもなぁ……」
が召喚師なのに武芸が達者だから僻んでるんじゃないか、ライは」

 その声に思わずは勢い良く振り返り、そのままその声の主の胸倉を掴む。

「ちょ、!」
「グラッド、早朝に会ったのにライたちの事情を説明しなかったわねえ!?」
「いや、それは……っ」
「あぁ!? 何だ!? 理由があるならさっさと言え!」
「ただでさえお前、こっち側ので仕事があるのにこういうことに首突っ込ませたらまずいかな、と思ってさ……」
「……その気持ちはわからなくもないですけどね」
「ミ、ミントさん……いらっしゃったんですか……!」

 ミントの登場には呆れてグラッドの胸倉を掴んでいた手を離す。

「ミントまで。何、そんなに私を戦いに巻き込みたくない?」
「巻き込みたくないって言うより、迷惑をかけたくないんだよ。……は、先のあの戦いで、既にもう……辛い思いをしてるでしょうし」

 先の戦い。それを知ってるのはミントと自分だけだと思っていたい。グラッド自身、傀儡戦争に参加したとは聞いているが、実際のことは信じてもらえないだろうし、何より色々と思い出したくないことも多かったから言いたくはない。

「私より、辛いのはあいつらだと思うけどな。結構元気にしてるけど、まだ引っかかってはいると思うの」
「……そっか」
「……なんか物凄い空気が重たいんだけど、オレはどうすればいいですか」

 ライの突っ込みにより、もミントも現実に引き戻された。

「あ、そうだ、ねーちゃん! 夕飯の仕込み、手伝ってくれよ」
「おっしゃ、任せな!」

 そうして、ライと共には家の中へ入ってゆく。その後姿を見送るミントの目はどこか寂しそうで、それが気になってグラッドはミントに尋ねた。

「あの、ミントさん、先の戦いって一体……」
「……」
「俺、がこの街にきてから結構な付き合いですけど、あいつのこと何も知らないんです。ミントさんと同じ蒼の派閥の召喚師であることと、ミントさんの同期にあたることくらいしか……」
「……グラッドさんもご存知の、傀儡戦争、ですよ」

 彼女は、その戦いの中枢にいた人物なのだ。

 

→レイニークオーツ 4

2006/12/28,2012/09/22