レイニークオーツ 4

「あーあーまったく、何でオレ様が出向く必要があんだよ……ったく」
「当たり前ですよ!? 今は誓約は解消されてますけど、貴方は…!」
「わーってるっつーの。んなに説教すんなイモ天使」
「い、イモ天使……っ!?」
「おいおい、お前もそれぐらいにしておけよ。アメルが本気で沈んじまう」
「ふん、マグナに免じて止めてやるとするか」
「なんか、なあ……」

 イモ天使、アメルと呼ばれた少女は呆れ返ってため息を吐き出し、小悪魔のような少年は、疑問に思っていたことを色白の長身の青年に尋ねる。

「ていうか、オレ様一人で行けば十分だろ」
「そうだな。僕たちは別の所へいくんだが、それまでの道が同じだけだ」

 青年の言葉に、なんだそうだったのか、と思うと、「あれ、そうだったんだ?」とそのことを口にした召喚師の少女に対して青年は「君はまた話を聞いてなかったみたいだな?」と眼鏡をかけ直す。青年のその動作に対して、少女は自嘲気味に笑うと、逃げるように先に行く。

「さて、僕たちはこっちだ。君は彼女を探しに行ってくれ、バルレル。この間帰って来たときに忘れたものを返すだけで構わないから」
「んなもん言われなくてもわかってら。そんじゃな」

 そう言ってバルレルと呼ばれた少年は地を蹴って、空へ飛び立った。

○○○

 忘れじの面影亭、食堂。くいっ、と眼鏡を元の位置に直して、リビエルは溜息を吐き出した。

「……多分、セイロンですわ」
「えぇっ!?」
「じゃ、じゃあ急いで探しに行かないと!」
「そうだね……、なんか妙な気配もするから早く行こう」

 そうが言って席を立つ。彼女が『妙な』と言った言葉がグラッドにはどうしても引っ掛かっていた。しかし、今はそれよりも2人目の御使いのセイロンとやらを探す必要がある、と街に繰り出してきた――のだが。

「ほぁちゃああああー!」

 その声が聞こえて、はおろか、全員が突っ込みをする気すら起きなかった。

「あれが、セイロン……?」
「少し変わってますけど、実力は確かですわ」
「ていうか、被害が拡大しそうなんだけど……」

 フェアがジト目で睨むように見ながら言う。それに同感、と言ったようにライも首を縦に振った。

「被害を拡大しないようにする為にも、加勢して早く終わらせるぞ!」

 そのグラッドの声に皆武器を構えて一目散に走り出した。街中で戦うのは物騒極まりないが、この際、仕方ない。

○○○

「たぁああっ!!!」

 敵の横腹を薙ぐ。手に直接伝わるその感覚はあまり好きではないが、我慢するしかない。後ろに敵の気配を感じて、背中合わせのその人物の名を呼んだ。

「グラッド!」
「…はぁっ!!!」

 グラッドの槍が刺さる。生々しい音がして、顔を歪める。この音が耳に入るたび、戦はあまり好きではないと思う。自分が前線に立つ人間であることはわかっていても、だ。
 グラッドは軍人ではあるが何処か、軍人らしくない。残忍な軍人であれば敵の心臓を一突きだろう。けれど、グラッドはそれはしなかった。

  幾ら敵であっても、同じ人間であることは変わらない。例えそれが種族の違いであっても。
 リーカとグラッドは互いの背を守るようにして武器を構える。

「しかし、人数が多いわね」
「んでもって、ライたちのほうに行かせないようにしてやがる」
「全く、面倒な……。グラッド、ちょっと時間稼ぐのは可能?」
「どれくらいだ?」
「……1分、いや40秒」
「それぐらいなら、何とかなると思う」
「じゃあ、頼んだ」
「あぁ、頼まれた!」

 にっと笑ったのを確認のサインとして見、は刀を納め、杖を構える。

「古き英知の術と我が声によって今汝へと、新たなる名を与えん」

 唱え始めた直後、ぽう、と光りだした光は唱え終わる時には眩し過ぎる光を伴った。

「新たなる誓約の元にが望む…、出よ、金剛鬼!『金剛衝』!!!」

 召喚された金剛鬼は、強大な音とともに周りを殲滅してゆく。それから送還したのを確認すると、すぐさま刀へ持ち替えた。

「グラッド、ライとフェアのところ行って来るから残り宜しく!」
「了解っ!」

 全力疾走で敵の屍を飛び越えてゆく。現役から多少離れていたが、劣ることはない。
 ちょうど彼らのところに辿り付いた時、今まさに、ライが背後から攻撃を受けそうになっていたところだった。慌ててその間に入り、刀で敵を弾き返す。

ねーちゃん!」
「何だかんだ言っても、まだ実践慣れはしてないもんね。ここは経験者がフォローするべきところでしょう」

 そう言って、刀を鞘に収める。それを見て、敵が不思議そうにしていたが戦うのを諦めたと見たのか、飛び掛ってきた。

「……奥義、居合一閃!!!」

 勢い良く鞘から刀を出すことで風刃が生まれる。それを、シルターンでは居合いと呼ぶ。

「ね、ねーちゃん……」
「どーにも、昔の勘が戻らなくて昔ほどの威力は出ないけど、まぁまぁってモンでしょ」
「ねーちゃんって凄い強いのな……」

 びっくりだよと呟いたライは、剣を構えて目の前の敵に向かってゆく。ためらわないライの後ろ姿に、ためらってばかりだった昔を思い出す。まだ15歳なのに、その筋に迷いがない。守るんだ、という意思。それを、純粋にすごい、と思った。当時の自分にはなかったものだ。

 溜息を吐き出して、呼吸を整え、刀を構える。それから彼女はまるで舞うかのように剣戟を繰り出していた。それを見て、セイロンが感嘆する。戦うことに慣れている、と。

「……! 、後ろっ!!!」

 ミントの声にはっとして前方で押えていた敵を飛ばし、背後で振り上げられた大剣を、刀で防御する。上からの剣戟は、重力が加算されとても重い。しかも大剣ともなれば、刀一つでは防ぐのも大変である。

 そして更に最悪なことに、ふっ飛ばした敵が後ろ――とはいえ、かなり後方からこちらを目指して武器を構えて走ってくる。咄嗟にまずい、とは判断して大剣を弾こうとした。
 ――しかし、力が足らず弾けなかった。重みに手が震える。

 すると、前方で大剣を振り下ろした敵が、いきなり横へ飛んだ。何が起きたのか一瞬理解できなかった。

 しかし、その敵の横腹には確かに槍が刺さっていたのだ。だが、グラッドはそんな余裕もないし、近くにもいない。ならば、誰が……、と思って隣に降りてきた姿に、呆然とする。

「ったく、こんな奴らに苦戦するとはバカかお前は!」

 自分の耳すら疑った。

 

→レイニークオーツ 5

2006/12/28,2012/09/22