レイニークオーツ 6

 セイロンが食堂に来た時、既にあの女は居なかった。周りに聞けば、既に家に帰ったとのこと。聞きたいことが山ほどあったのに、ここにいないとは。

「気になっていたのだが、あの者は何故、鬼妖界に特化しておるのに霊界の者を連れておるのだ?」

 そのセイロンの質問に皆驚いて、セイロンを向いた。その視線は鬼妖界に特化していることに気づいたことにか、それとも霊界の存在を連れていたということを見抜いたことにかはわからない。どちらもの視線が混ざっているように思う。

「やっぱ、そっちのことはミントねーちゃんとか、ねーちゃん本人に聞いた方がいいと思う」
「だよね、私たちもお姉ちゃんのことは、よくわからないの。蒼の派閥の召喚師であることは、聞いてるんだけど……」

 その答えにセイロンがうーん、と唸っていると、リビエルが口を開いた。

「あれは確かに、悪魔でしたわ。しかもそれもかなり力は強い。先程見覚えはないかと聞かれましたの。わかりませんでしたけど……ですから、名のある悪魔かもしれません。でも……見たことは、ないし……」
「リビエルが言うんだからやっぱり、あいつって只者じゃないよなあ。うん、俺は巡回がてら理由でも聞いてくるよ」
「そしたら教えてよね、グラッドさん!」

 にぃっと笑いながら言うリシェルに思わず、グラッドは苦笑する。彼女は抜け目がない。

「わかったわかった、待ってろ、急かすなよ」
「ふむ、グラッドよ。巡回ついでと言ったな?」
「え、ああ、まあ……」
「すまぬが、我もあの者の家に連れてってはもらえぬか」
「別に構わないけど……」

 その言葉を聞くと、セイロンは満足したように笑みを浮かべ、グラッドとともに外へ出て行った。

「……セイロンさん、さんに何かあるのかな……」

 心配そうに見るルシアンに、リシェルはもしかして、と口を笑みに変えて騒ぎ出す。

「一目惚れとかだったりしてー!」
「そんなわけはないと思いますけど」

 リビエルの突っ込みにぐ、とリシェルは押し黙った。ツッコミが早い。考えられるとすれば、彼女は鬼妖界の力を強く持っているからだと思う。

「まぁ、確かにねーちゃんは……ちょっと、特殊だからな……」
「ライ、あんた何か知ってるの?」

 ずい、とライの顔を覗き込むようにして前に出るリシェル。するとライの目付きがじっとりとしたものに変わり、それから言った。

ねーちゃん、俺らと一緒で全属性が扱える召喚師なんだよ」
「え!? それ初めて聞いたよ!」

 真っ先にルシアンが驚いて声を上げた。ライの言葉を補足するように、フェアが口を開く。

「しかも鬼属性、霊属性はトップクラスを誇るって、ミントお姉ちゃんから聞いたことあるよ」
「そ、それって召喚師には物凄く珍しいじゃない!?」

 リシェルの驚きは周りの驚きを全て集約したかのようだった。二つの属性がトップクラスに扱える召喚師だなんて、驚くのが普通なのだ。しかも全属性が扱えるとまできた。それこそ、伝説の誓約者や、調律者・クレスメントのようではないか。

「でも、それ以外は全然、聞けてない。ミントねーちゃんも詳しいことは教えてくれないし……」
「込み入った話が聞きたいなら本人に聞いて、って言われちゃったの。だけどそれを実際聞くのがちょっと怖くて……なんていうかね、聞いてはいけない気がしてる」
ねーちゃんの生い立ちを知る人は誰もいないんだ、なんて言われちゃうと、なあ?」
「そ、それってどこで生まれたとかもわからない、ってことですの!?」
「簡単に言えば、そうなるんだろうな」
「……それも、知ってるのは本人だけ、ってことなのかな?」

 不安そうにするルシアンに、緑の竜の子が近寄って「ピィ……?」と鳴く。不安そうにしているのを読まれたようだ。

「やっぱり心配になるよね、不安そうな顔してたら……」

 フェアがコーラルに近寄って手を伸ばす。するとコーラルはぴょん、とフェアの腕の中へ入った。

「……もしかしたら、さっきの悪魔の子は知ってるかもしれない。だって、元は護衛獣だったって聞いたし……。もしかしたら知ってる可能性はあるよね」

 そう言って皆を振り向くと、今度は桃色の竜がフェア目掛けて飛んでくる。青い竜は既にライの肩に乗っていた。

「……でも、聞くのは……怖い、よね」

 そしてその数分後、どんよりとしてしまった空気を割るかのように現れたメイドによってこの話は一時的に終焉に向かった。

 

→レイニークオーツ 7

2006/12/29,2012/09/23