レイニークオーツ 7

「ああ、グラッド、いらっしゃい」
「俺以外にももう一人いるけどな」

 そう言って後ろを示すグラッドを不思議そうに見て、はいらっしゃい、と言う。

「セイロン、だったっけ?」
「いかにも」
「で、お二人さんは私に聞きたいことがあるんでしょ」

 何でわかったんだ!?と慌てるグラッドを見て、リアクションが思い通りだと呟く。グラッドは手に取るようにそのリアクションがわかるから面白い。

「で、聞きたいことは何となく想像はついてるわ」

 セイロンは口元を隠していた扇子をぱしっ、と閉じる。それから感嘆の溜息を吐き出した。

「……アイツの、私の元護衛獣のことでしょ。セイロンは私の召喚術を見ている上に鬼妖界出身だものね。何故かってぐらいは思うでしょうね。グラッドは私が鬼属性がメインって思ってるから、なんで霊界に関係があるのかと思ってるくらいだと思うけど」

 セイロンは興味本位なんだろうと思う。しかしグラッドには、仲間として話をしておくべきだろう。

 遡るのは、蒼の派閥にミモザやギブソンの手配もあって、家の跡継ぎとしてどうにか派閥に属せる事になったころの話。はあっという間に成長し、見習いを卒業することになった。その試験が護衛獣の召喚、及び戦闘だった。

「本当なら鬼妖界の者を護衛獣にしようと思っていたの」
「本当、なら……?」
「そう」

 しかし、は成り上がりとして嫌われていた。だからだろう、厄介な『意地悪』をされた。

「袋の中に4つのサモナイト石を入れて、その中から選んだ石で護衛獣を召喚しろと」
「なんだって!?」

 ありえない話だ、とグラッドの顔が歪む。本来なら最も得意とする属性の者を召喚する、とミントから聞いている。だからミントは幻獣界のテテによく似たオヤカタを護衛獣としている。

「幸い、霊属性もそれなりに使えたから良かったんだけど、召喚したのは悪魔の中でも魔王に属される者だった。アイツが言うには召喚できたからには霊属性も相当強いって言われたわ」

 狂嵐の魔公子の異名を持つ程の悪魔。今は仮の姿として子供の姿を取っているが、元の姿の魔力は恐ろしい。

「……そしてそのまま、彼は私の護衛獣になった」
「しかし、それでは話が合わぬぞ? 元、護衛獣なのだろう?」
「そうよ」

 傀儡戦争の真っ只中。バルレルに懇願され誓約を解いたのがきっかけだ。

「そのとき、私は本当に恐ろしい者を護衛獣にしていたんだって再確認させられたわ。だって、喚んだのが魔王だなんて誰が思うの?」
「……魔王、か」

 グラッドが顔をしかめて呟く。無理もない――悪魔と言えばほとんどの者が悪いイメージを持つ。侵略を行う者、天使と敵対している者。そういう言い伝えばかりだ。

「それ以来、誓約をかけるのが面倒になっちゃってさ」
「面倒、とは……また」
「話をすると、どの召喚師にも誓約をかけなおせって言われる。でも、そうやって縛っておくのはいけないと思うんだよね。私たち召喚師は召喚する側だけど、召喚される側にとっては……本当、身勝手な理由で使われてるに過ぎないんだもの……。アイツは誓約をしなくても私の傍に居てくれた。だから、誓約をかけなくてもいい。裏切られたって構わないよ、それがアイツの望むものならさ。だから、蒼の派閥のある人たちにお願いしておいたのよね。蒼の派閥にバルレルが居るようだったら、事件を起こさない限りは好きにさせてやってくれって」

 実際は彼はギブソン・ミモザ邸にお邪魔している。先の騒乱で戦った一人の元護衛獣、悪魔ではあるが、危害を加えるつもりもないとのことでなんとか黙認されている状態なのだ。

「それで、今回は私が報告に行ったときに忘れたモノを届けにきてくれた、ってわけ」

 先ほどの凍っていた表情はいつの間にか消えていて、彼女はにこやかに言っていた。バルレルが忘れ物を届けてくれたことが嬉しかったように。

「…………」

 グラッドは、ちくり、と何かが痛んだ気がした自分の胸に手を当てて、首を傾げる。その行動に、大丈夫かどこか悪いのかと尋ねるが、大丈夫、とすぐに言葉を返される。

「大丈夫だよ。何でもないから」
「何でもないならいいけど、何かあるとライたちが心配しちゃうからね」
「あぁ、あいつ等は鋭いからなあ……」

 ははは、と自嘲する。あの双子は人のことに気づくのが上手いのだ。

「ふむ、事情は把握した。それともう一つ気になることがあってな、そなたの魔力は人を越しているように思えるのだが」

 セイロンの声にはびくり、と身体を震わせた。

「人を越するって……意味が不可解だぞ、セイロン」
「わからないのなら、わからないままの方が良い事もあるのだよ、駐在殿」

 そう言ってグラッドを止める。その視線はから離れなかった。

「……良く、わかるわね。さすが」

 数分の沈黙の後、の口から出た言葉にセイロンは笑う。

「ふふ、伊達に竜の道を極めてはおらぬ。気付こうと思えば、いくらでも気付けることであろう?」
「貴方みたいな人であれば、それは可能でしょう。でもね、普通の人にはわからないことなのよ。だからセイロン、その話は時期が来たら話すわ、それでいいよね?」
「ああ、構わぬ。わざわざ話さなくてもいいのだが?」
「本当は聞きたいくせに」
「あっはっはっは! そなたは面白い者よのう。……我の真意には気づいておるようだな」

 に貴方も面白いわよ、と言われてセイロンはまた笑った。

 それから数十分してバルレルが街から家に帰って来たとき、龍人と駐在に僅かながら嫉妬していたのは、本人しかわからない。

→レイニークオーツ 8

2006/12/31,2012/09/23