レイニークオーツ 9



 若い剣士の少年、アルバの応急処置を済ませミントの家で休んでもらっている間、事情聴取を行うのに適している場所として、一行は忘れじの面影亭へやってきた。
 事情聴取をされるルヴァイドとイオスを横目に、はフェアが出してくれたケーキを口に含む。昼間ライからもらったものとは別のものだ。これもまた美味しい。

の知り合い多すぎだろ……」

 はあああ、と重たい溜息を吐き出すグラッドと、対面する二人を目の前に、はケーキの一切れが刺さったフォークをさながら杖のようにくるくると振り回してから口に含む。イオスがそれを気になるというようにじっと見ているのにも気づいているが知らんぷりだ。

「そりゃあまあ、一応は聖王国に本拠地のある派閥の人間だし、色々と関わりのあるところは多いわよ。ミントとは同期だから、そっちの繋がりもあるし。ギブソン先輩とミモザ先輩とやっと結婚したのにバルレル預かってもらってて申し訳ないどころじゃないよ」
「そりゃあ、オマエがオレを連れて行かねえからだろォ」
「だってもう私の護衛獣じゃなかったし……。あ、ケーキ美味しい。昼過ぎに食べたのと別だけど、いくらでも食べられるわね」

 バルレルもそのケーキの味に頬を緩ませる。こと料理に関してはこの双子には敵わない。
 客人の前へコーヒーのカップを置きながら、フェアも小さくため息を吐き出した。

「結局ウチに集まるのね……」
「すまない、我らが身元を公にするのはあまり良くないのでな」
「だから、離れた宿を探していたんですね」
「あれ、フェア、彼らと会ったの?」
「うん、ちょっと買い物に出てた時に。その時は断られちゃったけど」
「あははは、そりゃフェアやライに『ウチに来ます?』なんて言われたら、こいつらのことだから断っちゃうわね。巻き込むわけにはいかない、って思ってそうだし」

 なんでわかった、と言いたげな顔を双方からされる。やはりそのような会話をしたらしい。当たりかあ、と思いながらケーキを口に運んでいると、ドスの効いた声でイオスに名前を呼ばれ睨まれる。

「はいはい、そんな目で睨まないでよイオス、綺麗な顔が台無しよ。あなた達をけなしているわけじゃないし、あなた達が優しいからこその判断だっていうのはわかっているから」
「ああもう、お前ら、、これは正式な事情聴取なんだから茶々入れないでくれよ!」

 しびれを切らしたグラッドが、わっと声を上げる。それもそうだ、こんなふうに穏やかな会話をされていては話が進まない。

「では、改めてお伺いします。あの剣士の少年といい、あなた方を見たところ旅人というわけではなさそうですが……」
「我々は『巡りの大樹』自由騎士団に所属している騎士だ。此度は帝国へ視察の旅に来ていた」
「『巡りの大樹』自由騎士団だって!?」

 グラッドが驚くのもわかる。
 権力に縛られない自由の剣、どこにも所属しない騎士団。ここ数年で瞬く間に名を上げ、このトレイユにですらその名は知れ渡っている。

「すごい、すごいや! 本物の騎士様だ……!」
「ふふ、ルシアンったら目の色を変えちゃって。そっちの長髪のほうがルヴァイド、金髪のほうがイオスっていうの」
「特務隊隊長を務めているルヴァイドだ。こちらは副官のイオス。よろしく頼む」
「は、はい……。視察に来ていたという自由騎士団のあなた方が、いえ、あの少年がどうしてあのような相手と……」
「軍人である貴殿の耳にも入っているだろう、『紅き手袋』が帝国で活動しているという噂を耳にし、調査をしていたところ交戦になった。その際、仲間であるアルバとはぐれてしまったのだ」
「幸い、君たちに助けられたことでアルバは助かった。本当に感謝する」

 グラッドによる事情聴取を流すように聞いて、ケーキを食べ終える。それに気づいたフェアが食器類を下げてくれて、ライが紅茶を淹れてくれる。グラッドたちの会話を無視すれば、非常に優雅な昼下がりそのものだ。
 その最中、「ライさん、フェアさん、おじょうさま、おぼっちゃまー!」と声を上げながらバタバタと走ってくる音が聞こえてくる。声からしてポムニットであることは間違いない。ミントの家で竜の子たちとアルバを診ていたはずだったが……と考えを巡らせていると、店の出入口が開いてポムニットの姿が見えた。
 フェアとこそこそと話をしているが、あの慌てっぷりからして恐らくは、竜の子に関する何かの問題だ。アルバのことであれば、まずそこの騎士二人に声をかけるはず。

「……『剣の軍団』、竜の子、セイロンたちがなんとか食い止めてる」

 話を聞き取ったらしいバルレルが、ぴくっと耳を動かして断片的に呟く。やはり、竜の子関連か。
 竜の子の騒動に、グラッドやミントほど直接関わってきたわけではないが『剣の軍団』は一戦を交えたことのある集団だ。助けに入るかどうか考えあぐねていると、ライもフェアも手に武器を持ってドタバタと出て行く準備をしている。
 その姿を見てイオスが尋ねると、リシェルが至極呆れたという顔をして返答した。

「気にしないで……。あんたたちには関係のないことだから……」
「こっちも色々と面倒なことがあって……」
「戻ってくるまでゆっくりしててくれよ!」
「すぐ片付けてくるから、留守番頼むわね!」
「申し訳ありませんが、御前を失礼します!」

 矢継ぎ早に挨拶をして店を飛び出していく彼らに、騎士二人が小首を傾げたあと、残っていたへと視線を移した。その視線は、事情を説明をしろといわんばかりである。

「……あの子達もちょっと面倒事抱えててね。この間、至竜の子供を三匹も拾っちゃったのよ」
「なっ……至竜だと!?」
「おっ、さすがの反応、元帝国軍親衛隊イオス殿。で、その至竜の件で絶賛放浪中のライとフェアの父親が関わっているらしくて、それで巻き込まれちゃってるの。ポムニットとの会話全部聞き取れはしなかったけど、竜の子を狙ってる軍団が、ミントの家に襲撃に来たってとこね……」
「ミント、というと、アルバが今いる……先ほどの蒼の派閥の召喚師のところか」

 がたり、と席を立つルヴァイドとイオスに、紅茶のカップにつけていた口を離しても立ち上がる。バルレルは不服そうにしょうがねェなァ、と席を立つ。

「行くなら急ぎましょ。親玉が本気出してきたらちょっと厄介そうだからアンタが相手したげて、ルヴァイド」
「承知した」
「だあー、結局出るのかよ」
「嫌ならいいのよ、バルレル?」
「ケッ、前みたいなことになられたら困るから行ってやるよ」
「じゃあ、とっちめに行きましょうか!」

 

→レイニークオーツ 10

2015/05/30