sonic

グランコクマの酒場。
彼女は、いつもそこに居た。

その酒場の、歌姫だった。

さん、ですか」
「まぁ、行き倒れだったのをうちで預かったら歌が上手かったからさせているだけなんですけどね」

そうバーテンダーが言う。

「ここの名物にもなりつつある…」

そういった視線の先には、その少女――― がいた。

彼女の旋律は譜歌に似て異なる。
だが譜歌などのものでなく、ただの歌なのだ。
しかし、彼女の歌は心を落ち着かせることが出来ると噂が立つ。
その歌声に魅了されているのだ。

「…本当に歌が上手いですねぇ」

ぽつりと呟いて、ジェイドは目を伏せる。
彼女の歌は、ある一種の癒しのようだった。
その歌声を聴いているだけで心が落ち着く。

そんな、気がする。

 

そんなある日の夜、その少女――― を街で見つけた。

さん」
「ひゃ…!!」

ビックリして声を上げて、その人物の服装がマルクト軍服であることに気付く。

「え、えと…あの…」

見たことがあった。
酒場によく居る―――あの『大佐』だ。
あの時間になると必ずその場所が空く。
そう、それはその『大佐』こと『死霊使いジェイド』が来るからだ。

「どうなさいましたか、夜中に1人で」
「えと…」

相手は軍人。
何か、あるのだろうか…?

「こんな夜中に何をなさっていたんですか?」
「あの…」
「何でしょう?」
「あの…実は…」

実は。
何だろうか。

「街の外の孤児院のお手伝いに…行ってまして…」
「その帰りだったんですか」
「はい…」
「では、送っていきましょう。何かあると困りますから」

大丈夫です、1人で帰れますから。
そういう を無視して の手を引く。

「貴方にもしものことがあったら、歌姫が居なくなってしまいますよ」
「そ、そんな歌姫だ何て…」
「何も卑下することもないでしょう。貴方の歌は本当に美しいのだから」
「え、あ…、そ…んな…っ…! あ…有難う御座います…っ!」

とぼとぼと、彼に手を引かれながら は歩く。

着きましたよ、と。
そう言われるまで、 はずっと月明かりに照らされる彼を見ていた。

「…何か」
「あ、いえ…何でもないです! わざわざ有難う御座いました…!」

そう言って、彼女は店の中へ駆け込んでゆく。

月明かりに照らされるジェイドが、とても美しく見えた。
なんてことは、心の中にしまっておいて。

BGM:sonic(ポルノグラフィティ)
2006/04/09

孤児院なんてないよグランコクマ。
街の外れにそんなものないよグランコクマ。