降り注ぐ雨 -CrazyRain-

その場面に私は何度遭遇したことだろう。
いや遭遇したのではない。

―――私が、その場面を何度『作って』しまったのだろうか。
そう考えるだけでもう、考えたくもなくなる。

血に塗れた人間の屍。
必死にその屍を助けようとする人間。
そして、戦っている軍人。
その軍人―――その一人が私。
どれだけ汚いといわれても、私はそうすることでしか生きていけない。
それが仕事だから。

 

敵の気配を感じる。

「…陛下、お下がり下さい」

その声は聞きなれた。
ピオニー9世の懐刀と呼ばれるジェイド・カーティス大佐だ。

「敵襲ですね」

ぽそりと も呟く。
そして、暗闇の影に隠れる暗殺者を捕獲するため地を蹴った。

「―――あ」

突如 が発した言葉に?を浮かべるピオニーとジェイド。

「仕留めてしまいましたが、構いませんか?」

そう聞かれて、ピオニーもジェイドも返答に困る。

「とりあえず、いつもの場所に持ってっといてくれ」
「判りました。大佐、陛下を御願いします」
「判っていますよ。 こそ気をつけてくださいね」

その言葉を確認して、 はその暗殺者を担ぎ上げると闇の奥へ消えていった―――。

 

「…こーんなもんかなー」

溜息を付いて、それから埋葬した所を見る。

「…人が死ぬのって…」

軍人としてこれを思うのはどうかと思う。
今まで無理強いをして人を殺してきたけれど、どうしても、そう思ってしまって。

初めて人を殺したとき。
そのときは仕方のないことだと呪文のように言い聞かせていた。
兵士になったばかりで余裕もなかったからだろう。

今となっては多少余裕も出来、色々と考えるようになった。
そして気付いた。
人を殺すということが、どれだけ苦しいものかということに。

「―――嫌だよね…ホント」
「何が嫌なんですか、 ?」

予期せぬ返答は、 の後方から返ってきた。

「たたたたたたた…!」
「落ち着いてください」
「っ、た、大佐…!」

目を見開いてその姿を確認して驚きを鎮めて。
その動作が完了するまでやけに時間がかかったと思う。

「陛下は…」
「無事にご帰還、ですよ」

途中ブウサギがどうのこうので別の場所に拉致られましたけどね。
そう呆れ気味に言うジェイドは何処か楽しそうだった。

「それはご苦労様です」

陛下のあの性格は、目の前のジェイドが言うには昔からで仕方が無いことだという。
現皇帝としてもう少し場を弁えて欲しいと言っているらしいがどうにも直らないのだとか。

「で、どうかしましたか?」

わざわざ私のところに来るなんて。
そう嫌味ったらしく言うと暇でしたので、と同じように嫌味っぽく返してくる。

「…というのは嘘で、 に会いに来ただけです」
「珍しいことを仰いますね、『カーティス大佐』」
「もう公務の時間は終わってますよ?」

その言葉の意味は判っている。
だけれど、どうにも今日はそんな気分じゃなかった。

「…申し訳ありませんが少し考え事がしたいので一人にさせてもらえませんか」

そう言って、ジェイドの横をすり抜け―――ようとしたときだった。
ジェイドが の腕を掴む。

「何か」
「考え事というのは、人の死に関してですね」
「…。いえ、違います」

では、先程の溜息や独り言は?
そう言うジェイドにやっぱりかと は今更気付く。

声をかける以前よりその場に居たのだ。
気配を消して。

「誰でも躊躇いや苦しみはありますよ」
「じゃぁ…っ」

がジェイドを向いて、言った。

「どうして貴方はそんな平然としていられる!?」

それはジェイドに対しての言葉であり、彼女自身の疑問の塊。

「…それは、表面だけですよ」

顔に出ないだけ。
出そうとしないだけ。
ただそれだけ。

「私はかなり前、自分の先生を殺してしまいました」
「―――!」
「私に第七音素は扱えません。それを無理に使おうとした為です」

それ以来、その人を生き返らせるためにとフォミクリーの研究を進めた。
しかし―――それは無理なのだ。
どうやっても、完全に先生―――ネビリムを復活させることなど無理なのだ。

「それ以来、死についてよく考えるようになった。理論上は判っている。でも、それをしっかりと認識できない。そして―――自分が人を殺すということも、強がっては居てもあまりしたいとは思わない」
「…」
「実際、人殺しなんてしたくない。その生きた時間が無駄になる。レプリカを作ったとしてもそのレプリカに死んだ人間の記憶など戻らないのだから」

そこまで言って、ジェイドは溜息を零して眼鏡を上げる。

「すみません、昔の話になるとつい口調が戻るようで」
「そんなものは…気になどしません」

血の雨。
それを浴びるということが苦しいということ。

それは、戦っている者なら誰でも一度は考えることなのだと思う。
この前の前の何を考えているか判らない天才も、やはり考えていたのだから。

「ただ、私は大佐が―――」
「ジェイドで構いませんと前にも言いました」
「ジェイドが人を殺すとき何も思わないのかと不思議に思っていただけですから」

そういって、 は帰るべき方向へと足を進める。
その背中に、ジェイドは微笑みながら言う。

「悩みすぎていてはその綺麗な顔が台無しになりますよ」

そのジェイドの予期もしなかった言葉に、 は前につんのめった。

2006/04/25