Don't call me...

「大佐」

彼女の… の声が、響く。

「大佐」

何度も何度も、彼女の声が頭に響く。

「大丈夫ですか?」

私の目の前で手を差し出す
私は、その手を取りたかった。
けれど、それは空を切った。

私が手を伸ばして、 の手を取ろうとしたとき、 の姿が消えた。

「どうしたんですか?」

彼女の声は後方から聞こえた。

「…いえ」

何でもありません。

「大佐…ううん、ジェイド。どうしてここに?」

は私に問う。
どうして、なんて。
なんで聞くのか。

「ジェイドはまだ、来ちゃいけない場所ですよ」

まだ?
何のことだ?
口に出しては居ないのに、 は言う。

「そうです、まだ来ちゃいけない。忘れてしまったんですか?」

私は、一体何を忘れた―――?

「…私は、もう、貴方の傍には居ないんですよ」

が紡ぐ。

「もう、私は居ないんです。貴方の傍には」

そして、彼ら―――ルークたちの傍にも。
敵であるヴァンたちの傍にも。
どこにも、居ない。

「ここは、何処だと思いますか?」

問われて、私は改めて考える。
ここは何処だ。
知らない場所だ。

「ここは、死者の国。つまり、死んだ者が来る場所です」

だから、来ちゃいけない。

「貴方はまだ、やらなくてはならないことがある。私は―――もう、貴方の傍に居てあげられないけれど」

私は、死んだから。

「―――そうでした、ね…」

今でも鮮明に覚えている。
が死した瞬間のことを。
忘れることなど、出来るものか。

「だから、貴方は元の世界に戻って」

私が貴方の足枷になってはいけない。

「―――もう」

ジェイドが、言う。

「貴方には、会えないんですか…?」

その言葉に、 は暫く黙り、ゆっくりと頷いた。

「そう、ですか」
「ごめんね…ジェイド…」

いえ、構いません。
それが、『運命』というものですから。

そういう様に に微笑みかける。

「では、最後に御願いしてもいいですか?」

そう、ジェイドが言って、 は首をかしげる。

「キスをさせてください」
「―――!」

貴方が今ここに、私の前に本当に居るのか確かめたい。
そして、もう一度。
ほんの少しでも良い、『貴方』のことを私の腕の中に収めることが出来るのなら。

「…ジェイドが望むなら」

ふわりと微笑んで、 はジェイドに近付く。

影が重なったと同時、そのほんの一瞬。
風が舞って、その影すら、消えた。

 

「―――ジェイド!」
「…!」

ここは、何処だ―――?

「た、大佐ぁああ!!!」
「アニス…」
「ごめんなさい私のせいで…!」
「いえ、大丈夫ですよ」

そうか、と思い出す。
アニスを庇って毒を浴びた。
そして、倒れた―――ということか。

「ジェイド…大丈夫か?」
「大丈夫ですよ」

珍しい、夢を、見た。
あの子が…居た。

「…大佐、本当に身体に異常はないんですか…?」
「えぇ、何もありませんよ。どうも私は生死を彷徨ったようですが治療が良かったのでしょう」

そういって、いつも通りに口元だけ笑ってみせる。

 

―――
もう、貴方は私の名前を、呼んではいけない。

貴方が私の名を呼べば、私はいつでも貴方の元へ行ってしまいそうだから。

2006/04/27