モラトリアムリバース

「…大佐、どうかなさいましたか?」
少尉…」

そのまま行くと壁にぶつかります。
そう注意して。

「おかしいですね、貴方が」

そう、死霊使いジェイドが。
こんなにも間抜けに壁にぶつかりそうになるなんて。

「ここのところ平和だからかもしれませんねぇ」
「大佐らしい言い方というか」
「ルークたちの…いえ、特にルークのおかげで」

あれを、ルークと、そう呼んでいいのか判らない。
ルークオリジナルなのかルークレプリカなのか。

それが判らない。
興味を、そそった。

けれど、やめておくことにした。
また取り返しのつかないことをしてしまったら、と恐れるから。

「あ、っと…すいません、ちょっと用事があるのでお先に」

そういって はパタパタと姿を消してゆく。

ふと、窓から外を見る。
―――どんよりとした曇り空。

「…一雨降りますね」

そして、何か嫌なことが起こりそうな気がする。

 

「あ、居た居たー」
「にぁ〜」

は、軍服でなく私服で路地裏に居た。
1匹の猫が を見つけて寄ってくる。
しかし―――。

「ちょ、ど、どうしたの…?!」

その猫は、 に近付く直前倒れた。

降り出す雨。
その中で は暫く慌ててどうしたのか探ってみた。
そして足を怪我していることがわかったのだ。

包帯を巻いておけば…。
そう思って包帯を巻いた。
けれど、猫の足から血は止まらず、猫の体温は下がっていく―――。

「っジェイド!!!」
「公務中に呼び捨てにしないで下さい。って貴方びしょ濡れですよ?」
「猫がぁー…」

そういう の腕の中には1匹の猫。
―――なるほど、彼女はこの猫のために早くに帰ったのか。

「猫が如何したんですか」
「足をやられてるみたいで…血は止まらないし体温は下がってくし…!」

どうすればいいの!?
そう、彼女は訴えた。
その瞳にはうっすらと涙が溜まっている。

彼女の泣く顔なんて、見たくない。

けれど放っておけば猫の命は…。
そして、 は…。

その猫を救うのに、一つだけ、方法がある。
―――フォミクリーを使えばいい。

「仕方ありません」

彼女の泣き顔は見たくない。
そして、猫の命も。

以前はこんなこと思いもしていなかったかもしれない。
其れはやはり、『彼ら』に感化されたのか。

ルークのように、全てを造るのではなく。
その部分だけを造る。
そうして付け替えれば。

、私にその猫を数日ほど預けてくれませんか?」
「え…でも…」
「大丈夫、治してみせますから。…それと今すぐ着替えてきなさい。襲いますよ」
「こ、この変態眼鏡…!!!」

―――それが、フォミクリーの正しい使い方、なのだろう。

 

後日。

「何か、ものすごい珍しい光景」

の声に、何でですか?とジェイドが聞く。

「だってジェイドが猫を抱いてる」
「にぁ〜」

私に懐いているようですよ?
そういうと、 がぷくっと膨れる。
その仕草が軍人に合わず可愛らしくてつい笑みを溢す。

「はい、 。お返ししますよ」

ジェイドが差し出した猫を受け取るとこの前猫が怪我していた足はすっかり元通りになっていた。

「…あれ、足…」
「私のフォミクリー技術です。ちゃんと元通りでしょう、 ?」
「ジェイド…本当に凄い…」
「いやいや、それほどでもありませんよ」
「有難う、この子の足を治してくれて」

ぺこり、と。
ジェイドに礼をする。

「本当、有難う」
「礼を言うのは私の方なんですけどねぇ…」
「え?」

彼女のおかげで。
フォミクリーの良い使い方が立証できた。

確かに人間を完全とも言わないが殆ど再現できてしまうその技術は危ないと思う。
けれども、こうして、役に立つ『医療』として使うことも可能だ。

「ジェイド、頭打った?」
「何を失礼な。私はいつもと何ら変わりありませんよ」
「まぁ、いいや。ジェイド、本当有難う」
「構いませんよ、それくらい」

貴方の為ならね。

2006/04/01

でもこれってご都合主義だよなあとこれを書いた3年後(2009年)に思いました。