カントラリーセレナーデ

真夜中に歌が聞こえる。
この歌を歌っているのは誰か、何て直ぐに判る。

面倒くさそうに身体を起こし、制御用の眼鏡をかける。
それからカーテンを開けて、その歌い手を見る。

「…また貴方ですか」
「えっへへー」
「近所迷惑以前に、不審者として捕まりますよ?」

まったく、と呆れるジェイド。
けれど、そこまで嫌ではなかった。

「だーいじょーぶ、いざとなったら陛下にかけあうから」
「…そこで陛下ですか…」

確かに、ピオニーは彼女の能力に一目置いている。
そのためかピオニーが彼女の前だとかなりヘタれているのだ。

怖いわけじゃない。
単に『可愛い』から。

「…夜中に女性一人で出歩いて何があっても知りませんよ」
「そのときはジェイドに助けを呼ぼうかなー、とか。 ―――ダメ?」

上目遣いで自分を見上げる少女。
その上目遣いに騙されるやつも多いが、ジェイドはそこまで引っ掛からない。

そこまで、というのだからたまに負けることもある。

「ダメです」
「えぇー…」
「夜中に出歩く貴方が悪いんですよ?」
「だってー、ジェイド寂しくないかな、とか」

ぶつぶつと途切れ途切れに言う少女が『可愛い』と思うのは誰でも同じだろう。
その姿は愛らしいのだから。

「だからって歌を歌うのはどうかと思いますよ」
「えー…? だってセレナーデとか良く言うじゃない?」
「セレナーデは本来男が恋人の家の窓の下などで歌う曲のことです。あえて言うなら逆でしょう、逆」

でも、それも悪くない。

「ですが、貴方がカントラリーセレナーデをしたいのならご自由に」
「カントラリーセレナーデ?」
「造語ですが、反対のセレナーデという意味、でしょうかね。本来とは真逆ですから」

貴方が歌いに来る夜を、私は楽しみに待ちましょう。
貴方が私へ送る、カントラリーセレナーデを。

メールマガジン配信:2006/05/01