It slowed to realize.

「ねぇねぇっ、ジェイド!」

その声に、名を呼ばれた本人はそちらを見ずに言う。

「毎度毎度何ですか貴方は。 仕事の邪魔です」
「あのねー、うちの執事が新しい茶葉を買ってきたのよー」
「…。 それがどうかしましたか」
「そんでもってねー、その茶葉で淹れた紅茶が砂糖も入れてないのにほんのり甘みがあって美味しくて」
「そうですか」

そうやって適当に流しながらジェイドは『仕事』である書類整理をしている。
彼女は毎度毎度こうやって勝手に話しに来る。

喋るのが好きで仕事中だろうが何だろうが構わず話に来る。

仮にも貴族の令嬢で更に言えば軍人なのだが、何処か抜けているのだ。
それでいて、戦いとなると恐ろしい実力を発揮する。
だから第3師団から追い出そうにも追い出せない。

性格に難があるということを黙認するかのようにして皆彼女と接しているのだ。

「もぅっ!」
「…何ですか」
「何で話聞いてくれないのよ?!」

また、だ。
彼女は仕事中に押しかけてきては必ずこのセリフを言う。

「貴方、私が何をしているか判っていますか? 仕事の邪魔だと言ったでしょう。貴方も軍人なのですから仕事をしてください」

ぴしゃり、と。
ジェイドが言い切ると彼女は顔をしかめる。
それから、泣きそうな声で叫んだ。

「…っ、もうっ、絶っ対に貴方の所には来ないから!!!」
「構いませんよ。 そのほうが清々します」

バタン!ととても大きな音と共にその扉は閉まった。

それからもう3ヶ月になる。
本当に彼女は一度も来なかった。

そんなある日、討伐から帰ってきたジェイドが私室に入って直ぐ、絶句した。

「またですか陛下」
「また言うなまた」
「これで何度目でしょうねぇ」
「幼馴染として許せよ」
「まぁ、良いでしょう」

はぁ、と呆れて。
けれど笑って。
それを見てピオニーは言う。

「あの子のことなんだけどよ」
「あの子? 誰ですか」
「3ヶ月ほど前まで毎日のようにお前の所に仕事を妨害しに行ってた子だ」
「あれですか」

また溜息を吐き出す。
しかし、ピオニーが居るのに対してとはまったく異なる溜息だった。

「あんなの知りませんよ。自分で第3師団を抜けているんですから私にはもう関係ないことでしょう」
「相変わらず酷い奴だなお前は。ま、それはいいとして、だ」

何だというのだろうか。

「あの子、敵にやられた」
「そうですか。 ご愁傷様です陛下」
「何で俺に言うんだジェイド」
「かなり迷惑で腕っ節だけは強い陛下の有能な部下が死んだんですよ。 だから陛下に言うんです

私の部下ではありませんから。
そう言うと、ピオニーの座る反対側のソファに腰掛ける。

「そんでもってな、あの子から言うな言うな言われてたんだが、それを言いに来たんだ」
「さっさと用件言いやがってください。私は連戦だったので疲れてるんです。手短に御願いします」
「…そーだな、手短に言うよ。あの子がジェイドの執務室に毎度毎度邪魔しに行ってた理由なんだがな。あの子、働きづめのお前を気にしてたんだよ。だから少しでも安らいで欲しくて毎度毎度邪魔しに行ってたんだと」

お前最近無駄に仕事しすぎだろ?
そう言われて誰のせいでそこまで仕事が増えてると思ってるんですかと言い返すとピオニーは言葉に詰まる。

「けど、俺がお前に命令した仕事は長期のが多かっただろ。なのに短期で終わらせようと無理してっからあの子に心配されるんだよ」

お前顔色悪かったの気付いてたか?
唯でさえ雪国生まれで肌が白いですが何か。
そういう理由じゃない。
話はそれだけですか? 寝たいんですが。
あぁ、すまんな。これだけだ。
お送りするのは面倒なんで自分で帰ってください。
いいさどうせ俺は1人さっ!
何すねてるんですか貴方は。さっさと帰ってください。

そんな会話が続いてピオニーが部屋から消えると、ジェイドは溜息を漏らす。
それから適当に軍服を放り投げてベッドに潜りこむ。

「…あの子が、そんなことを、ね…」

あぁ、何故気付かなかったのだろう。
彼女の優しさに。

気付いたときには既に、鳥は墜落していた。

メールマガジン配信:2006/05/21