僕の中にある僕じゃない僕と君

彼女は過去の僕を知っている。
僕の中にある僕を知っている。

「なあ、ジューダス」

その声に、なんだ、と短く返す。
すると少女は笑い出す。

「幸せ?」

行き成りの質問に僕は目を丸くしただろう。
何故、そんなことを聞くんだ。

「まだ、マリアンさんのこと好きなんじゃないかなと思ってな」

彼女は…、懸念しているのだろうか?
僕が引きずって居ると思っているのだろうか?

「それだったら、本当に申し訳ないことをした」

僕が、そう、僕の中にある僕じゃない僕が死ぬ直前、彼女は僕に言った。
その言葉は、今も覚えている。

意識が消えそうなその時に言われた言葉だったから、尚更。

『好き…』

その端正な顔、その双眸から、大粒の涙を流して、僕に。
普段表情を崩しもしない君が、僕に、言った。

「…何故、謝る必要がある」
「死ぬ間際に、迷惑掛けたなと思って。今でも思ってる、リオン、君はマリアンさんが好きだろう」

リオン、と彼女が僕の中にある僕じゃない僕の名前を呼んだとき、胸が痛んだ。
この時代で、僕はリオンとしては生きられない。
裏切り者だから、生きていけない。
それを知っていて、僕の過去の名を呼んだ、君。

「…そう思うと、申し訳なくなる」

私は可愛い女の子ではないから、余計に。
どちらかと言えば男勝りで、リオンとの衝突なんて何時ものことだったから。

「そんなことを気にしてどうするんだ?」
「…私の気持ちに整理を付けたいだけだ、聞き流してくれるだけで良い」

これこそ迷惑だ。
そう思った、でも彼女の言葉を止めようとは思わなかった。

「私は君が好き。誰よりも」

はっきりと彼女の声で、彼女の言葉で、聞こえた時、自分の胸が高揚するのが判った。
―――らしくない。でも、その言葉が嬉しい思うのだ。
そんなこと彼女には判らないのだろうけれど。

「でも、それは所詮片思いだ。君は私を好きではない」

18年前。
君と一緒に戦っていたとき、君が私を守ってくれる度に私はその思いを閉じ込めようと必死になった。
好きになってはいけない。彼を、好きになってはいけない。

「こうして有り得ない出会いをした今でも、私は君のことが好きだよ」

無意識に、頬に涙が伝う。
それを、見せてはいけない、と私は咄嗟に俯く。

例え、彼が世間で裏切り者と呼ばれていても好きだ。

彼には深い理由があった。
裏切りといわれるようなことをしなければならないほどの、理由が。
その理由を知っているからこそ、だからこそ、この思いは消えることなどない。

「ごめん、軽い愚痴だ。聞き流して―――」
「そんなこと出来ると思うか?」

はっきり聞こえた。
え、と驚いてその泣き顔を上げてしまう。

それと同時に感じる熱に、勢い良く後退し、壁にびたん!と張り付く。
―――そして、ぱちくり、ぱちくり、と大きく瞬きをして、少しばかり遠方の彼を見る。

仮面を取った、彼の素顔。
そして、今しがた感じた小さな熱。

思い出して、顔が紅潮したんだと思う。
体が熱い。

「勝手に肯定しないで貰いたいな」

不敵な笑みを湛え、一歩、また一歩と近付いてくる彼に、どうするべきかと右往左往に目を泳がす。
そうして迷っている間に、一切の逃げ場がなくなってしまった。

「確かにマリアンのことは愛していた。だが、一つ間違えないで欲しい」

この感情は愛だったんだろうか?
今はそう思うことがある。

それが、18年前に彼女という存在があったからなのかもしれない。

「今の僕が好きなのはお前だ、

一生を掛けても聞くことが無いだろうと思っていた言葉。
その言葉に、今となっては彼の前でしか崩れることを知らないその顔がまた、崩れた。

嘘でありたい。
彼の口から発されたその言葉、嘘で…冗談であって欲しい。

「言葉では足りないか?」

不敵な笑み。
それに身を引こうとしても後ろは壁。
―――嘘でも、冗談でも、ないらしい。

目線を泳がせて、この嬉しすぎて、ある意味では危険な状況をどうやって切り抜けようかと模索する。
その追随を許さないとでも言うように、私の口は塞がれた。

壁に張り付くようにしていた私はあっという間に彼に引かれ、身動きすら取れなくなる。
本当に身のこなしが早いと思いながら、私はその熱に溺れた。

一生得ることなどないと思っていた、その熱に。

BGM / 僕の中にある僕じゃないボクだけのボクと僕
(BeForU)
2008/03/22

PS版リオン死亡フラグのTOD2。
個人的にはこっちのが好きです。DCはifとして、みたいな感じが強い…。