広き夜空のスピカ

星が綺麗ね、と相棒と話をするために出てきたのであろう彼に、告げる。
すると彼は一歩送れて、ああ、と短く返した。

君、本当にそう思ってないでしょう?

「本気でそう思ってる? 星が綺麗だって思ってる?」

思わず詰問してしまうと、仮面の中の双眸が困ったなという表情をした。
図星だったか。

「見なさい、この広大な夜空を」

その星たちへ飛び込んでいく勢いで、 は腕を広げた。
そうして振り向く彼女に、やれやれ、と仮面が揺れる。

「18年前、同じものを見たことがある?」

申し訳無さそうな声音で、けれど強く、彼女はその答えを求めた。
過去の僕に、何を聞きたいのだろう。

「特に空を気にしたことは無かったな」
「そっか、つまらない人生送ってたんだ、ジューダスは」

何もそこまで言わなくても、とシャルティエが反抗したのが聞こえたが、 には一切聞こえていない。
ジューダスが反論をしないことにも驚いているようだ。

「つまらなくは無かった」

そう、ゆっくりと、昔を思い出すように言葉を紡ぐ彼を見て、広げていた腕を戻した。
只ならぬ哀愁がしたから、だから―――。

「…それはカイルのお父さん、お母さんとかと旅したときの記憶でしょ?」

それはつまらなくは無かったんだ、良かったね、と彼女は言う。
どうして、関係の無い彼女が僕を心配するんだろう?

「なら、良かった。その捻くれた性格でも楽しめてたんだね、一応は」

彼女は儚く笑うと、すとん、とその場に座った。
僕も彼女の隣に腰を下ろす。

「何故、僕を心配するんだ?」
「時々諦めたような顔をするから」

即答された答えに、目を丸くする。

「何かを悟っているような顔。それで居て悔しがる顔」
「…暇人めが」

そんなに僕を観察している暇があるなら、後衛に回らず、前衛に居れば良いものを。

「あんたがリオンだって知って、別に憎む気も起きなかった。ジューダスとして生きていたあんたは…結構、素直だったから」

言い回しこそきついものの、その言葉の奥では心配をしてくれている。
そう気付いた時から、彼へ対する見方が変わった。

「…この大きな星空のように、ジューダスは優しい。きついことを言っても、それは図星だったり、的をつく答えだったり、聞き逃せない言葉ばかりだったから」

カイルにきつく当たるのもカイルの両親を知っていたから。
英雄になりたいと豪語する彼を、精神的にも成長させるためにも。

「だから、この空みたいに、広い。物事の多くを考え、広く観察する」
「お前から見た僕はそんなイメージか」
「そうね、雄大よ」

にこ、と隣のジューダスに笑いかける。
すると、彼は笑った。

「…笑った」
「そんなに驚くことでもないだろう」
「初めて、そんな風に笑ったの、見た…」

驚愕、という表情をする に、馬鹿にしたように笑う。
すると彼女の顔がむ、とした顔に変わった。

「あんた、本当幅広い」

何を指してそういっているのだろう。
そう思って居ると、意外な言葉を言われた。

「女性キラー確実よ、さっきの笑顔」

その言葉に、雰囲気なんか打ち壊しだ、と心の中で言ったのは言うまでも無い。

BGM / CRESCENDO(stella quintet)
2008/03/22