大切な贈り物

「紹介しよう、君たちのサポートとして入ることになったくんだ」
「……はじめまして」

 Mr.ハートランドに引き合わされて、生気のない顔だ、というのが最初の印象だった。
 身を包む白衣と、ゆるく結ばれた長い髪。という研究者は、まるで人形のようだった。

○○○

「お、カイトじゃねえか。おつかれ。には会ったか?」
「ゴーシュ……。今朝、Mr.ハートランドに呼ばれてな。、人形みたいな女だな」

 俺の言葉に、ゴーシュの奴が笑う。話を聞くとつい先程に改めて会ってきたらしいのだが、どうも最初の印象と違う人物らしい。
 会いに行ってみればいいさ、と言われ、彼女の部屋の前まで連行される。力任せに連行とは……。連れてくるだけ連れてきておいて、部屋の前でゴーシュの奴は「じゃあな」と俺を置いていった。
 顔合わせは済んでいるのだし、別に改めて挨拶をする必要などないが、ゴーシュの言っていた印象が違うことが気になる。だが、と俺が迷っていると扉が開いて、が姿を現した。

「あれ、カイトくん……だっけ! 何か用です?」

 ……面食らった。そこにいたのは、Mr.ハートランドの前で見たあの生気のない目や顔ではなかった。一瞬部屋を間違えたかと思ったくらいだ。呼び方も馴れ馴れしい。

「……、あ、あれ?」
「今朝とは随分違う態度だな?」

 今朝、という言葉に小首をかしげて考え込む仕草。思い当たらないのか、と聞こうとすると、手を打ってああ、と声を上げた。

「ごめんなさい、普段はこんな感じなんですけど、根を詰め過ぎると睡眠も食事も忘れちゃって……ご挨拶の際の、あんな風に。今日ご紹介いただくことは前々から伺っていたんですけど、つい……。あの後すぐに寝たんですよ」

 つまり、徹夜明けだった、というわけだ。そうだとしても人形のような生気のない顔だった。

「あっと、そうだ、立ち話してるところじゃなかったんです。ごめんなさい、いまから出かけないといけないのでおはなしはまた……」
「おい、今からか?」
「ええ、そうですけど……?」

 引き止めたことに少々後悔する。
 外は日が落ちている。いくらハートランドシティが明るいとはいえ、女一人で歩かせるわけにもいかない、と何故か思ってしまったのだ。普段であれば気になどしないのだが。

「どこに」
「え」
「どこに行くんだと聞いている」
「……、言わなきゃ、いけませんか?」
「お前は俺やゴーシュ、ドロワのサポートとしてここにいるのだろう。何かがあって、その仕事に支障が出てはこちらが困るのでな」
「……、お墓参り、です。わたしの父の、月命日なんです、今日。それで、昼間寝てしまって行けなかったから……。日付が変わる前には、ちゃんと、戻ってきますので……!」

 今にも泣きそうな顔をする。そんなにも、父が大切だったのか。そんなにも娘に思われている父親……俺の父とは違い、優しいのだろうな。

 ナンバーズを持つデュエリストに遭遇する可能性がないわけではないし、なによりこんな時間に女一人で外を歩かせるわけにはいかない。いくら墓参りだとしても、だ。
 そう思ったら、言葉は口から出ていた。

「……送って行く」
「え……」
「ナンバーズが現れてから、特に物騒になったのでな。お前がデュエリストかどうかは知らんが、デュエリストであったとしてもナンバーズの使い手には勝てないだろう。それに、ナンバーズの使い手が現れればこちらとしても好都合だしな」
「……、ありがとう、ございます」
「行くぞ」
「……はい!」

○○○

 途中、ハートランドシティの花屋で、おそらく墓前に飾るのだろう、はユリの花を買った。父親が一番好きな花だったらしい。というのもを産んですぐに亡くなってしまった母の名前がユリ、なのだそうだ。父も母も亡くしていたとは驚いた。

 花を買ったあと、ハートランドシティを抜けていく。シティの華やかな光から、ゆっくり遠ざかっていく。
 どうやら、の父が眠っているのは、ハートランドシティに一番近い霊園のようだ。

「あっそうだ、カイトくんっておいくつなんですか?」

 突然、が前を見ながら言葉を口にした。

「そんなものを聞いてどうする」
「交流ですよぉ、同じ職場の者同士! で、おいくつなんです? わたしと同じくらいかなって思ってるんですけど」
、お前は俺のことをいくつだと思ってるんだ」
「えっと、15、16かなって」
「…………」

 童顔なのは自分でも分かっているし、間違われることも多い。こう何度も様々な人物に年齢を間違われることが多いと怒る気もなく、ただただ呆れてしまう。

「あれ、違うんです?」
「18だ。ドロワとゴーシュは19」
「じゅ、じゅうはち!? えっ……!? ご、ごめんなさい、年上だったんですね!? あっ、でも安心してください、こういった仕事をしているからにはちゃんと大学は出てますよ!」
「16で大学を出ている、というと……飛び級か。Mr.ハートランドが呼んでくるだけはあるな」
「……わたしには、これしかありませんでしたから」
「……すまない、親がどちらもいないのだったな」
「いいえ、こちらこそ、ごめんなさい。お墓参りにお付き合いまでさせてしまって……。わたし、確かに飛び級をできる頭はもっています。でもこれは、父や母が残してくれたプレゼントだと思うんです。わたしが一人でも生きて行けるようにって」

 空を仰ぐようにして歩き続けるに、釣られて空を見る。街の光から遠のいたからだろうか、星が良く見えた。
 親からのプレゼント、というその言葉にどう答えればいいのか迷ってしまった。そうか、とひとことだけ返せばそこで話は終わるだろう。詳細を聞こうとすれば、彼女はまた泣きそうな顔をするかもしれない。
 ひとしきり悩んで、長い沈黙の後、いいものを貰ったな、とだけしか言葉にできなかった。

 もう少しだけ歩いて、霊園に辿りつく。さすがに墓の前まで行くのは失礼だろうと思い、俺は入り口で待つことにした。

 が戻ってくるまで、俺は空を見上げていた。Mr.ハートランドから逃げていたあの頃も、こんな澄んだ夜空だった。ハルトと共に、流れ星を見たこともあったか。とても、遠い日のように感じてしまう。
 今は、ハルトのためにナンバーズを集め続けるしかない。それが、俺に課された仕事だ。

 ふ、と気配を感じると、隣にじっとこちらを見上げるの姿があった。いつの間に戻ってきたのやら。

「何か、考え事ですか?」
「……弟のことを、な。、お前父親のことは、好きだったか?」
「ええ、大好きでした。これはなにと聞けば、父の知っている範囲の知識で深く掘り下げて話をしてくれましたし、子供だましだとは思っていたこともありましたけど、即興で物語を聞かせてくれたんです。父は作家で、亡くなってから父の作品を読むことがあったんですけど、森に迷いこんで、木や虫や草に話しかけて、出口を探すお話でした。その主人公、父に物事を聞いていたわたしそのものみたいだったんです。あれにはびっくりしちゃった」
「そうか……。父親に、愛されていたんだな」
「だと思います。カイトくんのお父さんもきっと、そうですよ。自分の子供っていうのは、きっと、とても可愛いんだと思います」
「……さて、どうだかな。余り長居していると冷える。帰るぞ、
「…………! はい、今日はわざわざありがとうございました。これから、宜しくお願いしますね。ばっちりサポートしちゃいますから!」
「ああ、よろしく頼む」

2013/01/14
カイトの腰がえろい(と思いながらアニメ見てる)

フェイカーの目的が判明するかなり前のはなし。
そして、愛されていたんだなというのが後に分かる。