掴みとった未来の果て

 アストラル世界とバリアン世界、そしてこの人間世界の3つの世界の死闘の末に掴みとった未来が、いとも簡単にこうして崩れ去ってしまうものなのか。

 椅子に座ったまま仮眠を取り始めてから、どのくらい経っただろう。満足な睡眠がとれていないという重たい感覚が頭に残るまま、カイトの視界は眼前に広がるモニター郡へ焦点が合う。ハートランドシティのライフラインの状態や定点カメラの映像などが垂れ流されている。
 助手である機械のオービタル7も今はエネルギーの充電中で稼働を停止しているし、父・フェイカーの元部下で現在はカイトの部下である女研究者も別室で仮眠をしている。この部屋で起きているのは、カイトしかいなかった。

 ここはハートランドシティ中心部にそびえ立つ特徴的な塔・ハートランドタワーともいわれていた場所の地下だ。フェイカーを始めとしたハートランドシティに在籍している研究者たちの、本来の住居があった場所の地下でもある。
 カイトの住居もハートランドタワーの中腹にあったのだが、アストラル世界でもバリアン世界でもない別の勢力『融合次元のアカデミア』からの襲撃によって、避難区域として作られていたこの場所に移らざるを得なくなった。

「……4時……、3時過ぎに仮眠を取ったから1時間程か……。やはり無意識で緊張しているんだろうな」

 カイトは欠伸を噛み殺し、先程まで仮眠していた椅子に座り直してモニターを見やる。何か問題が起きていたなら警告音がしていただろうし、今のところ問題はないようだ。
 そうして、モニタールーム内を一瞥した後、部下兼助手の研究者のことを思い出す。

「そうだ、は……って、寝かしつけたのは俺だが、女性の寝起きを覗くわけにもいかないしな……起きてくるのを待つしかないか」

 この部屋で0時過ぎまでカイトと同じようにライフラインの監視などをしていた研究者・は、今は隣の部屋――本来はカイトの寝室として作られている部屋で寝ている。
 目覚ましにコーヒーをいれますね、と立ち上がった途端、彼女は急に倒れこんだのだ。連日の睡眠不足が祟ったのだろう。まだ寝ているようなら、日が昇るくらいまでそのまま寝かしておいてもいいかと考えながら足首を回して軽くストレッチをしていると寝室の扉が開いて、しわくちゃの白衣のまま女性が姿を現した。

 彼女こそ、。今でこそ父の研究を引き継いだカイトの部下として助手を務めているが、フェイカーの愛弟子でもあり、元部下でもあった、他世界エネルギー研究を得意とする研究者だ。デュエリストとしては弱いので、そちらに期待はしていない。
 そもそも、デュエリストとしての比較対象がカイト自身やチートとも言える引きの良さを持つ遊馬、バリアン世界を統べる王であった凌牙といった第一線級であるので、もしかしたらは市井ではそこそこ強いのかもしれないのだが、まあそれはさておき。

「ああ、起きたのか、調子は大丈夫か?」
「あ、はい! おかげさま……じゃない! えっと! あの! 目が醒めたら自分の部屋ではなくて! その!」
「落ち着け、。寝室に運んだのは俺だ。0時頃にコーヒーを淹れると立ち上がった際に倒れてそのまま寝てしまったんだ、覚えているか?」
「いえ……。日中、レジスタンス……神代さんに倉庫の方に現れたアカデミアの情報と座標を送ったのは覚えているんですが、それからの記憶がどうも曖昧で……申し訳ないです」
「ここのところ、アカデミアの襲撃回数が増えていたし、オービタル7が給電中だったからな……。疲れていたんだろう、が座標を送ったものは、凌牙が処理をしてくれて無事だ」

 無事だ、という言葉を聞いて、はほっとしたようで眉尻を下げた。カイトもそれにつられて顔を緩める。が、から出た言葉に、すぐに顔を歪める。

「神代さん、さすがですね! はあ〜……神代さん、ご無事なんですね。よかったです。後方支援って、ナンバーズ集めをしていた頃のカイトくんも」
「……
「……あ! 失礼しました、天城博士のときもそうでしたけど、見てるだけになってしまうから、自分がもっと何かできたらって悔しく思うことも多くて……特にアカデミアの侵略が起きてからというもの……、本当に」

 彼女の気が抜けているとき、なぜか『カイトくん』と呼ばれてしまう。凌牙のことは『神代さん』なのに、これだ。
 確かに年齢からしてみれば彼女のほうが上ではあるのだが、自分よりも年下である凌牙より、子供扱いをされているようで癪に障る。その度にカイトは訂正をするのだが、そうすると今度は『天城博士』になって、一気に突き放された気分になってしまう。だからどうしてほしいと、具体的な言葉が見つからずに言えないでいるのだが。

「……あ。あの、カイトくん? ごめんなさい、重かったですよね」

 先程まで人の部屋で寝てしまっていたことを思い出したらしく、は自身の口元の位置に合わせた手を持ってきて、申し訳無さそうにする。
 また『カイトくん』だ。『天城博士』と呼ばれるよりかは親近感があっていいとも少しばかり思うが、もう成人にも近いというのに、こう呼ばれるのはどうにも悩ましい。
 そう思ってしまうのは相手がだからなのか。もやもやとした思いがあるものの、確固たる答えは出ないでいる。

「いくら研究者といえどデュエリストだ。女性一人運べないような、そんなやわな鍛え方はしていない」
「デュエリストだからってそんな鍛え方する話、聞いたことないですよ……」
「そうか? まあいいさ、まだ夜明けまで何時間かあるから、寝てきても構わないぞ。自室まで戻るのが面倒なら俺の部屋でもいい、し」

 と口にしたところで、モニタールームに警告音が鳴り響く。も慌てて自席に着席して解析を始めた。
 まだ日が昇っていないこの時間にアカデミアの襲撃がくることはないわけではなかったが、ここのところは鳴りを潜めていた。向こうの戦力も削られてきたのかと思っていたが、そういうわけではないようだ。

「いよいよ、時間を気にせずに襲ってくるようになったか……」
「エネルギー反応感知、タイプ融合……、D・ゲイザーおよびD・パッドの未使用を確認、データベース不一致……デュエルディスクパターン、アカデミアです! 博士、この時間ではレジスタンスもまだ……」
「大丈夫だ、バリアン七皇は転移時のエネルギー反応に気づいているだろうから起きているはず」
「ま、待って! ち、地下区域にアカデミアの侵入を確認!」
「なっ……!? 地下に侵入されただと!?」
「このルート……港側の民間用出入り口を発見されてしまったようです。見つからないように潰してあったのに……。博士、どうしますか!?」
「まさか、日中はその調査に来ていただけだったのか……!? なるほど、なら少数だったのも納得がいく! 港側の道は潰している箇所がほとんどで居住区域には辿りつけないだろうが、このままでは研究区域の最上層の真上に辿り着かれる……」

 今動けるデュエリストは誰がいる。アカデミアが研究区域の真上に辿り着くまでに迎撃準備が整うデュエリストは。こちらに来れるデュエリストは。

(……、俺一人、か)

 ハートランドシティの管理もしている自分自身が、最も構造を知っている。研究区域に辿り着かれる前にあらゆる道を潰せる。
 カイトは給電中であったオービタル7への供給を切り起動させると同時に、既にある幾つかの道の閉鎖処理を入力する。

「カ、カイトくん!?」
。指示した道を閉鎖、爆破してくれ」
「は、はい……、どちらの道を」
「今じゃない。俺が確認次第、こちらに連絡を入れる」
「え……」
「レジスタンスに今すぐ連絡をしても、辿り着く前に広範囲に侵入される可能性が高い。最もこの場所の道を知る俺が上層へ出たほうが、最小限に抑えられる」
「でもそれって、カイトくんが危……」
「凌牙たちに連絡もしておいてくれ、俺が先陣を切るだけだ。閉鎖する場所を迂回して最も早いルートを案内してやってくれ」

 融合召喚を使い、ゲームと称して侵略をするアカデミア。そのデュエリストを相手にするのだ。
 今までの、3世界の問題もモニタリングして見てきているから心配をされることくらい、想定内だ。

 カイトは自室に入ると、懐かしい戦闘服に袖を通す。3世界の戦いを終えてからあまりこの服に袖を通すことはなかったな、などとあの思い出に浸る余裕はない。
 ジッ、とファスナーを胸元まで上げ、腰にデッキケースを携える。そうして素早く支度を整え、モニタールームへ戻るとが不安そうにこちらを見ている。

「……カイト、くん……。行くんですね」
「……ああ、俺とてこのハートランドシティのデュエリストだ。自分の住む世界を荒らしまわる奴は誰であろうと許さない。起きろオービタル7! 出る!」
「ハイ、かいとサマ!」

 そうしてオービタル7を引き連れてモニタールームの出口へ向かおうとすると、に呼び止められた。

「なんだ」
「必ず、帰ってきてくださいね。わたし、ここで待ってますから。絶対、犠牲になろうなんて、しないで」
「……ああ」
「……約束ですよ、カイトくん」
「ああ」

 自分一人で迎撃に出るのは、確かに不安なところがある。それを見ぬかれてしまっただろうか。そう、不安に思っているに対して、笑えただろうか。

「行ってくる」
「ご武運を。……システムオールグリーン。天城カイト及びオービタル7のモニタリングを開始、神代凌牙ほかレジスタンスのD・ゲイザーへの情報共有を開始します」

 の肉声は扉が閉まり、そこで途切れた。
 戻ったら、他の呼び方を考えてもらうのもいいかもしれない。凌牙を神代さんと言うなら、天城さんでもいい。ああでもそれではハルトと被ってしまうか。なら。

(そうだな……。せめて、くん付けをやめてもらうように掛け合うか)

 バイク形態になったオービタル7で研究区域を疾走し、しばらくすると中央部へ辿り着く。シティ全域のごみ処理施設を兼ねていたこの場所は、今も稼働していて上への近道でもあるほか、各所への近道にも通じている。データ上はそこに道があることを知っていても、内部構造まで把握できているのはフェイカーとカイトくらいのものだ。
 オービタル7のバイク形態を解き、飛行形態になったオービタル7の動力で一気に上へ加速する。そこから目的地への近道の扉へ近づき、その扉を開ける仕掛けを解除する。同時にから通信が入る。

『レジスタンス、神代凌牙と連絡が取れました! 民間第八区域から向かうそうですが、アカデミア侵入域まで30分ほどは掛かりそうです』
「……そうか、わかった。凌牙と連絡が取れたならほかの奴らも動けるだろう、ドルベ、ミザエル、アリト、ギラグに研究区域直下の第三に向かってもらうよう伝えてくれ。第五までの避難誘導を頼む」
『わかりました!』
「それと、研究区域P1ブロックからU36ブロックまでを隔壁閉鎖してくれ。まだ爆破する必要はないが、調査隊が先んじているのであれば辿り着かれる可能性がある」
『はい! ……博士、そこもうK3ブロックですよね……どこを通ったらそんなに早くつけるんですか? システム予想時刻10分短縮です』
「裏道だ。……アカデミアは今どのあたりにいる?」
『反応があるのはN9ブロックです。この先のM、Oブロックは何年も前にブロックごとつぶしていますから、そのまま現在空いているルートを辿ってKに来ます』
「わかった。あとは民間人の避難のほうを優先的にモニタリングしてくれ。神代兄妹にはK6ブロックで待機を」
『わ、わかりました……!』

 その声を後に、との通信が切れる。これでアカデミアは一直線にこちらに向かってくるだろうし、神代兄妹とも合流できる。Kブロックまでの誘導の必要があるが、それは先陣を切ったカイトの役目だ。
 バイク形態のオービタル7で長い廊下を走る。

「かいとサマ、エネルギー反応ヲ感知シタデアリマス! 熱源6、イズレモ人間デアリマス。でゅえるでぃすくヲ装着シテイルデアリマス!」
「……アカデミアだな。思ったより少ないな。少数精鋭か……?」
「ムッ! 新タニ熱源18確認! 後続ノ模様!」
「24人か……わかった。オービタル、通常形態に戻れ。こちらから仕掛ける」
「……カシコマリ!」

 バイク形態のオービタル7から降り、D・パッドを構える。

「……デュエルモード、フォトン・チェンジ!」

 さあ、俺が相手をしてやろうではないか!

 

2015/12/24
BGM:ZEXAL SOUND DUEL2

カイトって22話(まだ悪人面してた頃)で融合使ってツイン・フォトン・リザード呼んでるんですよね。決闘庵でもシンクロ以外の召喚方法は登場しているのでXYZ世界にはシンクロ・ペンデュラム以外の召喚方法の攻略法もあるのにどうして滅んでしまったんだ。そうこう言って放置しているあいだに、公式発表でARC-Vにカイト出ることが発覚していい加減これ上げないと、と思って更新。