とまどい

 数多くのプロデュエリストを排出し続け、デュエリストの聖地とも名高いデュエリストのための学校、デュエル・アカデミア。経営母体は知らない者はいない超一流企業、海馬コーポレーション。プロデュエリストを目指すものでなくても、KCの入社試験に受かりやすいと言われていて、もちろん受かれば社員として働ける。インダストリアル・イリュージョン社からの引きぬきもあるって話を聞いたことがある。

 わたしはその高等部、オベリスク・ブルー寮に所属する2年生だ。生まれはハートランドシティだけれど、ハートランドシティにはデュエル・アカデミアがなくて、一番近いアークティック校に入学することができた。
 長期休暇になったから、ハートランドシティの実家に戻ってきて、早々にお隣さんである神代のおばさんから双子の面倒をみるように言われてしまった。

 神代家には双子の中学生がいて、男の子は神代凌牙、女の子は神代璃緒っていうのだけど、この二人がなんでデュエル・アカデミアに入らなかったのかってくらいデュエル強いのよ。ふたりとも色々あったけど、凌牙は全国大会決勝出場したくらいの強さよ。

 ご両親は研究者でほとんど家にいないから、昔からうちで預かったり、面倒を見ていたの。だから別に嫌悪感とかはなくって、久しぶりに会うからどうなったんだろうなって楽しみにしていたんだけど……。

「りょぉーがあ、なんでさっきから無視するのよー」
「…………」
「久しぶりだっていうのに、その反応はないんじゃないかなー?」

 総無視されてる。なにか凌牙の機嫌を損ねるようなことをした記憶はないのだけど。
 璃緒はまだ帰ってきていないみたいで、家には凌牙だけ。昼も過ぎておやつの時間が近い。

「……何しに来たんだよ」
「長期休暇になったから、実家に帰ってきただけよ? そしたらおばさんに面倒みておいてって言われたの」
「お前に面倒見てもらう必要なんかねえよ」
「だよねー。もう中学生だし、そこらの中学生よりも家事とかしっかりやってるし、わたしが来る必要なんてないと思うんだよねえ」
「じゃあ、なんで来たんだよ」
「久しぶりだから。凌牙にも璃緒にも会うの、1年ぶりくらいじゃない? だから元気にしてるかなって、思ってさ。璃緒帰ってくるの待ってたかったんだけど、邪魔なら帰るよ」

 相手にしてもらえないんじゃ仕方ないし、とソファから立ち上がろうとすると、白いマグカップに入ったカフェオレを差し出される。
 アカデミアに入るための受験勉強で、眠気と戦うために飲み始めてから、すっかりわたしを象徴するような飲み物になってしまった。今も、アカデミアの食堂や、出先でよく飲む。

 凌牙が作ってくれたということは、邪魔だとは思われていないみたい。まだいてもいいみたいだ。

「……砂糖なにいれたの?」
「今うちに蜂蜜しかないから蜂蜜。グラニュー糖じゃなくて悪いな」
「ないんじゃしょうがないわね。ありがと」

 しばらくすると、凌牙が自分のマグカップに何かを入れて、少し間をあけて右隣りに座った。なにをいれたのかと聞けば、紅茶とだけ短く返ってくる。強い香りがしてこないということはフレーバーティーではないみたい。
 凌牙はそれを一口飲んで、ソファの前の机にマグカップを置いた。

「アカデミア、楽しいかよ」
「楽しいわよ。毎日デュエルできて、同じ話題で盛り上がれて、こんなに楽しい学校があったんだって思うくらい」
「そっか、良かったな」
「凌牙もくればよかったのに。中等部あるんだしさ」
「プロになりたいとは思ってないしな。デュエルは好きだけど、その仕事に関わりたいわけじゃないから」
「大会に出場するような人がそういう事言うのかあ……」
「それとこれとは別だって。は何になりたいんだよ、アカデミアに行ってまでやりたいことってなんだ?」
「うーん……元々はね、KCに入れればっていうのがあったんだけど、最近は先生になるのもいいかな、って思ってるの」
「先生、ねえ……。いいんじゃねえの、お前、他人の面倒見たがるし」

 我慢できずにくつくつと笑い出す凌牙に、わたしは机にマグカップを置いて凌牙の髪を引っ張った。

「わ、おいっ、引っ張んなって!」
「あんたが笑うからよ! 別におかしいこと言ってないでしょー!? さっきだっていくら話しかけても無視するしさー!」
「そ、それは……その」
「なに、理由あるの。あるなら言いなさい」

 髪を引っ張りながら問い詰めると、凌牙は右下に視線を落としてわたしから目を逸らす。

「……、………って」
「聞こえない」
「き……、れいになった、な、って……、思って! アカデミアで恋人でも出来たのかって、思ったんだよ!!」

 視線は逸らしたままの凌牙から発された怒声のような声が、わたしの耳を突き抜けた。
 綺麗に、なった? 恋人でも出来た?

「……は?」
「なんだよ、その間抜けな声」
「なあに、あんたそんなこと考えてたの!?」
「そんな事って言うけどな! お前に恋人できたなら俺邪魔だろ!? 近所の幼馴染だからってお前はうちに来るだろうけどな、相手からしたらいくら幼馴染でもいくらガキでも……」
「ない、ないんだって」
「は?」
「いないわよ、恋人なんて。みんなデュエルバカよ? ありえないから! ほんとに! だから、そんな気を使おうだなんてしなくていいのよ、久々にあったからとりあえず褒めておこうってのも……」
「嘘じゃ……、ねえよ!」

 一瞬、脳が揺れるような衝撃。思わず目をつむってしまっていたようで、目を開けると同時に、柔らかいものが口を塞いだ。――それが、キスをされているのだと気づいたのは数秒後、息がしづらくなってからだった。

「っ……、な、ん」
「……っ、いいか、よく聞けよ……俺はな! お前が! が……、好きなんだよ……っ、帰ってきたと思ったら綺麗になってやがるし、普通は恋人を疑うだろ……! いたなら、諦めたのに!」
「凌牙……」
「わり……ガキに、こんなこと言われても嬉しか、ねえよな……忘れて……」
「……人のファーストキスを奪っておいて、いい度胸ね、凌牙?」
「…………! 悪かったっ!! その、つい……」
「つい、でやるもんじゃないわよ。わかってる? ……あんたが18になってもわたしのことを好きなら、その時は考えてあげるわ」
……」
「責任、とってもらうんだから、覚悟しなさいよ!!!」

2013/01/08
なんかちがう

GXまでは同じ時間軸だったと自分の中で考えていて、ごっずとゼアルは平行世界だという考え方でいます。