約束

『責任、とってもらうんだから、覚悟しなさいよ!!!』

 冷静を装うとしたけどできなかったあいつの照れた顔。あれからしばらく焼き付いて離れなかった。
 はデュエル・アカデミアを卒業した後、デュエルの研究をすると大学に進学した。先生になるという進路を決めたらしい。
 らしい、というのは、本人から聞いたわけではないからだ。あいつの母さんから聞いたことだ。

 俺はといえば、中学時代のひと騒動を終えて、シティ内にある高校に進学した。日常的にデュエルはするが、それがメインではない生活になった。フェイカーが主催したハートランドの大会に何度か出てはいる。

 あいつと約束した18歳に、もうすぐなる。
 あの日から、には会ってない。

 ピピピ……、とDゲイザーから着信を知らせる音。誰だと思って見てみれば『天城カイト』の文字。
 騒動が終わってから、こいつはこいつで父親の仕事を手伝いながら大学に通っているらしい。年齢的に、これ以上伸びないだろうと思われた身長はなんとか伸びたようで、俺と同じくらい……170くらいにはなったんだったか。

「どうした」
『急ですまない、今日の夜、空いているか?』
「今日……? ああ、特に用事もねえし大丈夫だけど……。なんの用だよ?」
『実は、ハートランドシティにデュエル・アカデミアを設立する予定があってな。KCの社員と、KC側からの教員候補との顔合わせを兼ねた会をすることになっているんだが、その会にお前を呼ぼうと思ってな』
「なんで俺が?」
『先方から、ハートランドシティのデュエリストにも会ってみたいと言われていてな。遊馬にも連絡をしたんだが、どうやら補習で捕まってるらしい』
「遊馬のやろう……、わかった。行くぜ」
『助かる。後で詳細は送っておく』
「おう」

○○○

「Ms.、コチラはDr.フェイカー、このハートランドシティを創り上げた稀代の科学者です」
「はじめまして、アークティック大学、デュエル教育研究室に所属しておりますです。この度は教授や学生をお招きいただき、ありがとうございます」
「いいえいいえ、こちらこそ、遠路はるばるお越しいただき感謝いたします。どうぞこちらへ。ハートランドシティが誇るデュエリストも呼びまして、ささやかではありますが、席を設けさせていただきましたのでごゆっくりなさってください」

 ハートランドシティにデュエル・アカデミアができるなんて、思っても見なかったことだ。開催される大会の多さから、デュエリスト人口数の急増もあって、KCが設立の打診をしたらしい。
 わたしはその教員候補のうちの一人として、教授について挨拶に来た。大学に進学してから忙しさでここに戻ってくることはなかったから、とても久しぶりだ。実に3年ぶりになる。

「Ms.はハートランドシティの出身でして」
「ほう、そうだったのですか」
「はい。実家はハートランドシティにありまして、中学まではこちらで過ごしました。その後アークティックのデュエル・アカデミア高等部に……。大学に進学してからはこちらに戻ってくる時間がなかなか取れず、実に3年ぶりになるのですが……」
「それでは、懐かしい顔がいるかもしれませんね。皆様、こちらの部屋です」

 Dr.フェイカーが扉を開けた先には二人の青年と、一人の少年がいた。青年の一人が驚いた顔をする。こっちだって驚いた。凌牙がいるなんて思わなかったんだから。

 3年前に行われたWDCの決勝に勝ち上がったデュエリストが、2人も揃っていた。その事実にこちらの学生からのざわめきが聞こえる。WDCには授業を休んで(学業の一環として許可が出た)参加したアカデミアの生徒も多かった。

「こちらは息子の天城カイト、その弟のハルト。それから、神代凌牙、後もう一人、かつてのWDC優勝者である九十九遊馬というデュエリストにも声をかけたのですが、都合がつかずに同席が叶いませんでした。それから皆様の後ろにおりますのがゴーシュとドロワ、彼らもWDCに出場しておりました。顔合わせではございますが、本日の会が皆様に楽しんでいただけますと幸いです」

 どこからともなく拍手が湧いて、拍手が落ち着くと、それぞれ散り散りになる。何人かが凌牙に話しかけにいこうとしたが、凌牙はそれをかわすようにこちらへ向かって歩いてきた。それに唖然とする学生の姿も見える。
 わたしの前に来て立ち止まると、背が伸びたのがわかった。見上げることになるなんて思わなかった。

「……、背伸びたわね、凌牙」
「お前背ェ縮んだんじゃねえの」
「あんたが伸びたのよ!!」

 言い合いをしていると、「知り合いなのか!?」と声が飛んでくる。

「知り合いも何も、凌牙は実家の隣の家の幼馴染よ。ちっちゃい頃良く面倒みてたの」
「マジで!?」
「普段はこんなしかめっ面してるけど、部屋には鮫の可愛いぬいぐるみとかたくさん持ってて」
「おいその口塞ぐぞ」
「……すいませんでした。デュエルの実力はみんなも知ってるとおりだと思うけど」
「俺そんな有名人のつもりねえんだけど」
「なんだかんだ言って大会に出てたら、名前知ってる人くらい多いわよ? シャークの名前で覚えてる人もいるけど……。それにしてもこんなところで会うなんて思わなかったわよ、久しぶり、元気にしてた?」
「いつも通りだよ。こんなことなら璃緒も連れてくりゃ良かったか」
「1週間くらいはこっちにいることになってるから、見計らって実家行くわ、そのときに璃緒にも会いたいわね。久々にデュエルもしたいし?」
「お前が俺に勝てるとでも?」
「あんたには勝てないわねー、何手先も読まれちゃってるし」
「そりゃちっせえころからやってりゃ、癖くらいわかるっての」

 話をするのに、顔をあげないと視線が合わないなんて、思いもしなかった。3年って、それくらい変わってしまうんだな。

 後から、他のハートランドシティのデュエリストがやってきて、更に盛り上がる。デュエルが好きなもの同士、話も合うし気も合うのだ。
 お手洗いに、と部屋を出て済ませてから、ついでだからと外の空気を吸うことにした。部屋は熱気に溢れていて、ちょっと居づらい。

「……、誰かと思ったらお前か」
「……先客がいるとは思わなかったわね。熱気にやられたのかしら、凌牙?」
「どうせお前もだろ、
「あははは、その通りよ。今日はどうしてここに?」
「カイトに呼ばれたんだよ。向こうから、ハートランドシティのデュエリストと話してみたいって言われたんだと」
「なるほどねー。教員候補の学生で、ハートランドシティ出身はわたしだけだし、最近は特に、大会が開かれるからってこっちに移住したデュエリストも多いって聞くから、特に楽しみにしていた人が多いと思うわ。なんたってデュエルバカばっかだから!」
「その様子じゃ、楽しいみたいだな。にしても、教員候補って男多いんだな、俺としてはとても心配なんだが」
「……はい?」
「約束、忘れてないよな。俺が18になっても、お前のことを好きなら、考えてくれるって」
「そんなことも、いったかしらね」
「……3年前のお前の顔、しばらく頭から離れなかった。幼馴染だとか、弟みたいに思われんのかもしれねえけど、俺は、今でもお前のこと好きだぜ。責任取ってやるからもうちょっと待ってろ」
「……っ、せ、責任取ってやるとかどんだけ上から目線なのよ……!」
「責任取れっつったのはお前だぜ、なあ、?」

 するっ、と頬を撫でる手にびっくりする。見上げなければ視線が合わなくなって、手も骨ばって、顔つきも、大人になったんだなあと思わせられて、しばらくじっと見入ってしまった。

「……、ぼうっとしてると食うぞ」
「えっ、あ、は!? あ、ご、ごめん……、凌牙も大人になったんだな、って……思って……、あの、さ、ほんとに、わたしの、こと」
「好きだぜ?」
「そ、そんなさらっと言うなんて凌牙じゃない……」
「……さらっと、言ってるわけじゃないんだけどな」

 ぐっと引き寄せられて、抱きしめられる。どく、どく、と早い鼓動が聞こえる。聞こえた音に、顔を上げると、わかっただろ?と困った顔をする凌牙の顔があった。


「……っ、み、耳元で呼ばないでよ……っ! それと手!離してくれてもいいじゃない……ああああもう、あんたのせいよ、なんでわたしこんなどぎまぎしてんのよ!」
「言う割には俺のほうがしがみつかれてる気がするんだけど」
「あんたのせいで顔が熱いのよ! 見せられるわけないでしょ……ああもう……」
「ほう……?」

 にや、と凌牙が笑った気がしたのもつかの間、顎に手を宛てがわれて上に向けられる。ひんやりした空気が火照った顔の熱をさらっていくようだった。

「真っ赤」
「……〜っ、だから言ったでしょ……」
「いいじゃん、りんごみたいで可愛いぜ」
「っ……ひゃっ!? い、いま」
「我慢して口にしなかったのに、そんな物足りなさそうな顔すんなよ。そんな顔してっとほんとに食っちまうぞ」
「そんな顔してな……あ、ちょっ……やっ……、は、はれんち!!!」

 ばちーん、といい張り手の音が聞こえたとか、そうでないとか。

2013/01/09

大学の名称あったっけ?と思って学校名学部名学科名研究室名まで考えて学部学科名書いたら長いからすっとばした。