始祖と言われることの悩み

 デュエルショーでの衣装から普段着に着替えを終えて、化粧品や衣装道具など持ち帰る荷物を確認していると、控室の入り口のから聞き慣れた声がした。

「邪魔をする」

 そう言って現れたのは、この舞網市で彼の姿を知らぬものは居ない人物。このデュエルショーの主催でもあるレオ・コーポレーション社長、赤馬零児だった。

「零児!」
「今日も良いショーだった。アクションデュエルによるデュエルショーを考案して間違いなかったと、君のデュエルを見ていると確信を強くする」
「ありがとう、零羅とまた一般席の方にいたのが見えたよ。零羅はいないみたいだけど、先に戻ったのか?」
「ああ、少し熱気に当てられてしまったようだったから、中島に任せて先に戻した。現状公式戦ではないから戦績にならないが、何度か公演を行ってきて不自由に感じる点はないか? こちらもショーに特化したアクションフィールドの形成は初めてのことだ。改善点があれば後進のためにも、公式戦化のためにも、遠慮なく言ってもらいたい」
「そうだな……沢渡とか、LDS生とかもショービジネスに興味があるデュエリストが出ている公演をこの間みたけど、見せ方がそれぞれ違っていて楽しかったよ。公式戦では勝つことが最優先だから、こういう場もあっていいと思う。デュエルは楽しいものなんだって伝えることができるし、俺からの不満はないよ。それに、うちの宣伝にもなるし、俺自身の収入にもなるし……むしろ助かってるよ」
「そうか、それならば良い。……今日は柊はいないのか?」

 零児は控室を見回して、いつもいるはずのマネージャーの姿を探す。しかしどう見ても今日は遊矢しかいない。

「ああ、今日は大学の課外活動でマネージャー業はお休みだよ。なんか、俺と柚子がいつも一緒にいるみたいな扱いされるけど、そうでもないからね」
「しかし君は柊が居ない時、非常に不安定だったからな。今でも少し、……心配にはなるさ」

 『ランサーズ』が発足した頃の遊矢の不安定さといったら、周りが心配をするくらいのものであった。
 そしてシンクロ次元へ転移した際、なかなか柚子と会う機会がなく疲弊していくのが目に見えてわかり、あの時は非常に不安定であったのを思い出したのだろう。零児は眼鏡の奥の瞳を一瞬だけ曇らせた。

「あははは、昔の話じゃないか。あの時は本当、いろいろなことがあったし……。今はこうして、零児のおかげもあってデュエルを生業にすることもできているし、父さんとは違う俺の、俺自身のエンタメデュエルがみんなを楽しませることができるようになった。……まあ正直、ペンデュラム召喚の始祖だなんて祭り上げられるのは、宗教じみてて好きじゃないから勘弁してほしいんだけどさ。ペンデュラムが一般に広く浸透するまではしょうがないのかな」

 それは、今日のショーのあとにインタビューをと言われた、あるテレビ局からの質問だった。

『榊さんはペンデュラム召喚の始祖とも名高いようですが、そのペンデュラム召喚についてどのようにお考えですか』
『たまたま私が初めてその召喚法を扱ったことからそのように言われますが……。そうですね、ペンデュラム召喚は新たな召喚法として徐々に浸透してきました。ペンデュラム召喚という方法が増えたことで、ペンデュラムシンクロ、ペンデュラムエクシーズ、ペンデュラム融合といった既存の方法から更に進化した方法が使われるようになり、デッキ構成やデュエルの展開が広がっています。ですので、ペンデュラムカードを是非みなさんもデッキに加えて使っていただき、新たな可能性を見つけていただきたいと思っています』
『なるほど、ペンデュラム召喚の始祖としては、この召喚法が広がってほしいと思っていらっしゃるのですね。過去の舞網チャンピオンシップではバトルロワイヤルの出場者に特別に配られたそうですが、独占状態だったことについてはどうお考えで?』
『……そのデュエリスト自身が学んできたものと体系が異なっていたことからその召喚法に慣れず使いづらかった、自身のデッキとの相性が悪く使用を控えていたデュエリストもおりますので、独占状態に見えていたのだと思います。ペンデュラム召喚は今、一般に浸透している融合、エクシーズ、シンクロなどの召喚方法と同じく、召喚方法の一つです。それらの召喚法のように当たり前のように浸透するまで時間はかかるかと思いますが、我が遊勝塾やLDSではペンデュラムを主軸にした召喚方法もお教えしておりますので、お困りでしたら先人の知恵を借りていただければ』

 ペンデュラム召喚の始祖、と何度言われたことか。嫌味のようにも聞き取れるその冠名は、あまり好きではなかった。
 遊矢は困惑気味に笑ってみせると、零児も口元を下げ、険しい表情をする。

「ああ……先のインタビュアーか……。許可をしたのはこちらだが、あまり良い内容とはいえなかったな。ペンデュラムが表立って出始めてからもう4年にもなるというのに、今更な質問ばかりであった。……ただ、君も律儀に答えすぎだとは思うが」

 質問内容に対して律儀に答えてしまうのは、知ってもらいたい、楽しんでもらいたいという彼の性ゆえか。
 インタビューの最後に宣伝を入れるようになったあたりは、利益を考えていることもあるだろうし、少し成長したともいえるのか。

「インタビューされたら、答えるしかないだろ。あの場にいるのはエンターテイナー、ペンデュラム使いの榊遊矢だから」
「まったく、君はバカ真面目だな……」
「バカ真面目って……それはないだろ」
「あの局はペンデュラムそのものに否定的な幹部がいると聞く、おそらくはそのせいだろう。君が始祖であることには変わりないが、純粋に君を見ることが出来なくなる層も増えてしまうだろうな。あまり過熱しないよう釘を差しておこう」

 エンターテイナーとしての榊遊矢個人のマネージメント業務をしているのは柚子だ。学業を優先してもらっているとはいえ、ありがたい限りである。
 デュエルショーはレオ・コーポレーション、ひいてはその社長である零児の力によるところが大きいものだ。ショーが終わり、家に帰ってただの榊遊矢に戻るまではレオ・コーポレーションの管轄となる。

「助かるよ。頼ってばかりで悪いな、零児」
「なに、君のデュエルショーはこちらとしても社の利益に繋がっていることだからな。ところで」

 零児は象徴とも言えるセルフレームの赤い眼鏡をかちり、と整えなおすとその奥の瞳が探るように遊矢を見据えた。
 なにか悪いことをしただろうか、それとも質問がくるのだろうか、と遊矢はその瞳が探らんとすることを考える。

「そちらのスクールの様子は? 遊矢、君の知名度が上がったことで入塾者も増えたと聞いている。しかし、君が教鞭を振るうことはあまりないと聞くが、そろそろ君が教鞭を振るっても良いのではないか?」
「なんでそんなことまで知ってるんだよ……って、聞くまでもないか。そうだな、まだ俺は人に教えられる人間ではないと思っているというのが、一つあるかな。うちは特にエンタメデュエルを掲げているのもあって、自分がデュエルを楽しむだけではなく『人を楽しませる』ことが必要になるだろ? それがどういうことか人に教えられるほど、自分が成長できているとは思えないんだ」
「……そうか」
「それに、俺に憧れて、なんて言ってくれる子もいるけど、俺への憧れだけで同じ道を志すことの難しさも知っている。俺の模倣になってしまっては、それは本当のエンターテイナーとはいえないしさ」

 父に憧れて父のようなエンターテイナーになりたいと思っていた。それだけでは、ただの模倣だった。
 遊矢はそのことをよく知っているからこそ、憧れただけで同じ道を進もうとする子供を諭す。デュエル塾を途中で変えることもできるが、その分その専門の知識の遅れを取り戻すために時間がかかってしまう。エンタメデュエルをするデュエリストが増えてほしいとは思うものの、子供の人生を左右するような大きな決断になることは間違いない。

「それに……あの榊遊矢がいる塾、という名前だけが売りになってしまうようなことは避けたいんだ。今はそういう熱狂的なものも多少あるしさ、親の意向ってだけで子供が振り回されちゃってるのも体験入塾のときによく見るんだ」
「そうだな……。個人の塾というのは、そういった方向性がはっきりしている分、判断が難しいものだからな」
「だからまあ、純粋にデュエルを学ばせたいならLDSが一番いいと俺は思ってるよ。どの召喚方法でも学べるっていうのはLDSの強みだし。今はペンデュラムもやってるんだろ? ペンデュラム召喚だけを学びたいならうちである必要はないしさ」

 自分の塾よりほかの塾を贔屓しているように聞こえてしまうかな……と遊矢は苦笑するが、零児も概ね同意している様子を見せる。
 エンタメデュエルを学びたい、自分もエンターテイナーになりたい、というのなら遊勝塾なのは言うまでもない。しかし、子供の意志を無視してそうさせようとするのは子供のデュエリストとしての将来を潰しかねない。

「すごいエンタメデュエリストが出てきたら、まっさきに零児に教えるよ」
「ああ、楽しみにしている」
「……次の世代は当たり前にペンデュラムを使うだろうし、ペンデュラムのその先を、皆が皆当たり前に使う世代になるだろうから、のんびりしていられないよな。始祖といわれるのは、仰々しいし、宗教じみててやっぱり苦手だけどそれでも。零児が言っていたように、俺はペンデュラムのその先を、常に提示しつづけなくちゃいけない。そういう位置に、いるんだろうな……」

 同時に複数体が召喚可能となったペンデュラム召喚。それが一般に浸透するのはまだ先のこと。
 そう思っていたら、あっという間に浸透してしまうかもしれない。

「ふ、始祖と祭り上げられることに疲れたら、柊にでも癒やしてもらえ。柊はいつでもお前の味方だろう?」
「あはは、そうだな、そうするよ。おっと、もう10時過ぎてるのか……柚子が待ってるし、帰るよ。今度の公式戦でまた」
「ああ。……また君とデュエルできるのを、楽しみにしている」

2015/12/23
BGM:アシンメトリー(堀江由衣)