きおくをたどる

「ねえ、先生ってどんな人なの?」

 そうトリスに聞かれたときに、俺はひとつだけ言わなかったことがあった。あの人は、今でも俺のあこがれで……初恋の人だってこと。

 それが『恋』なんだ、って気づいたのは、島での騒動が終わって軍学校に入ってからのことだ。
 帝国軍のとはいえ学校で、俺たちはそういう『思春期』ってやつで。誰が好きだのなんだのって言い合って、合宿の夜を明かしたこともある。
 その時に俺はあの人のことが好きなんだ、ってはっきり自覚をしたんだ。

 それからというもの、どうしてもあの人と会う機会があるとしどろもどろしてしまって、自覚ってのは怖いもんだなって思ったよ。
 今でこそなんでもないように振る舞えるけど、俺は今でもあの人のことが好きだって思ってる。
 だけど、俺じゃああの人とは吊り合わないし、無理だ、ってのは思い知らされてしまって。だから初恋の人で、あこがれの人で、そのまま。

 昔、子供だった俺は、あの人が抱えていたものを考えることもできなくて、自分のことばかりだった。
 そんなあの人が抱えていたものを最初から見抜いていたのがスカーレルで、俺が軍学校に入ってしばらくの間は、カイル一家と一緒に船旅をしていたんだよな。
 あの人も、スカーレルの前だと隠し事をする必要がない、ってとても安心した顔をしていたっけ。

 空気が違うんだよな、あの二人の間にある空気が。「センセとアタシは似たもの同士なのよ」なんてスカーレルは言ってたけど、それも納得する空気感なんだよ。
 その空気感が羨ましいとも、妬ましいとも思う。オトナの余裕ってやつだよな、まったく敵わないよ。

 あの人にとって俺は大切な生徒でしかない、ってのも、理解してる。
 だから、あの人が守りぬいたこの島を、みんなの笑顔を、俺も守っていきたいんだ。

2012/12/01
懐かしきSN3ED曲とともに。BGM:Lovelite