曖昧

「そんなにお気を使っていただかなくても結構ですのに……」
「い、いえっ、やはりミントさんは蒼の派閥の召喚師であるわけでして……」

 ミントの前でしどろもどろになるグラッドをちょっとからかってやって、それからフェアは、無言でミントの家の扉を閉めた。

○ ○ ○

 家に戻ってきてはあ、と短く、深くため息を吐き出すと「ピィイイ……」と心配そうに、拾ってしまった竜のたまごから生まれた子がフェアの顔を覗き込む。
 色々あっただけだよ、あなたまで心配することないんだよ、と告げると、安心したように甲高い鳴き声でフェアに抱きつく。その行動に、本能的に気づかれてしまっただろうか、と苦笑する。

 それから時計を見上げて、時計の針が10時半を示していて、そろそろお昼を作らなければ間に合わないと気づく。気合いを入れ直すようにぱんっ!と自分の頬を叩いて、立ち上がった。

 グラッドがミントを好いているのは知っているし、リシェルやルシアンが見てもすぐにわかる。グラッドはとてもわかりやすい反応をしていて、ミントはもしかして気づいていて、からかっているんじゃないか、と思ってしまうこともある。

 それを忘れようとして、わざわざこの「忘れじの面影亭」にお昼を食べに来てくれるお客さんのために、料理を作ることにした。

○ ○ ○

「……ふぅ、今日のお昼も終了っと」

 確認を兼ねて、独り言を呟きながら食器を食器棚に並べる。この食器を片付け終えてしまえばお昼は終わりだ。

 片付け終わったらどうしよう、と考えていると、少々乱暴に扉が開いた。

「あー、間に合わなかったか……!」
「グラッド兄ちゃん!?」
「ミントさんと話した後、巡回して昼飯食べようと思って来たんだけどさ、もうお昼終わっちまっただろ?」
「うん……お客さんに対しては、だけど……ちょっと待ってて、まかないみたいなのになっちゃうけどお昼作るからさ。午後も仕事あるでしょ?」
「ああ、ありがとう、フェア」

○ ○ ○

 この気持ちが何なのか、と言われて、素直に答えられない。ミントとグラッドが会話をしているのを見ると胸が苦しくなるのは、何度も経験して気づいていることだけど……。
 このことをリシェルに聞いたら自信満々に「それって絶対恋よ!」と言われたけれど、今はまだはっきりさせたくない、と思っている。

 今はそれよりも大事なことがある。私情よりも、あの子を守ってやらなきゃいけない。

 それが終わったら、また考えてもいいよね。今は曖昧なままでいいよね?

2006/12/17,2012/09/22修正