レヴィノス家の友人

「昔、俺の家って軍人として有名な家だったらしいんだ。伝説の抜剣者と一緒に戦ったとかいう話もあるとかで……。あと帝国時代に初の女性将軍を輩出した家、とも散々言われたっけな。もう300年も前の話だけど」

 そう言っていたのは、学園時代の友人だ。彼は響友と出会うことがなく、アベルトと同じ警察騎士になった。セイヴァール外の勤務が多くて、滅多に会うことがないのだけど、昨日久しぶりに会った。
 そんな時に、伝説の抜剣者と一緒に戦った、なんて話を思い出したのはきっと……レックス先生のせいだ。

「……先生、釣れてますか?」
「ははは、いや、やっぱりダメだね」
「……宝箱の山……」

 今日もいるだろう、とおもって訪れた場所に、かの先生はいた。300年前の狂界戦争の中心にいたとされる抜剣者本人。

「昨日、学園時代の友人に久しぶりに会ったんですよ。彼、セイヴァール生まれなんですけど、仕事はウルゴーラで中々帰って来なくて。本家筋がそっちにある家の子で、仕事以外でも本家の人に捕まっちゃってたらしくて」
「へえ……旧帝都ウルゴーラに本家筋がある、ってことは帝国の名門だったところか何かかな」
「軍人として有名だった……って話は聞いたことありますね」
「そうだろうね、帝都に家を構えていたのは軍人の名門がほとんどだったっから。あとは商家がいくつかあったかな」
「そうなんですか!? 武術の名門が多いって話は学園の先生とかから聞いたことありましたけど、元をたどると軍人だったんですね……」
「召喚師の名門もそれなりにあるけれど、君の友人の……シーダくんやカリスくんのような古い一族はいないかな。歴史的にも、武術のほうがどちらかといえば強い国だったから」
「お詳しいんですね、旧時代の帝国のこと……」
「…………ああ、うん。それは俺が帝国生まれ、だからさ」
「え……」
「はは、驚いただろ。響融化以前……とても昔のことだけど、俺も軍人をしていてね。すぐに辞めてしまって、先生になったんだけど」

 だから、先生と呼ばれるのが懐かしい、と言ったのか。

「差し支えなければ、だけど、君のその友達ってどんな家の出身なんだい?」
「帝国時代に初の女性将軍を排出した家……とか、言ってたような」
「…………そっか、その子はレヴィノス家の血を引いているんだね」
「え……それだけの情報で……ご、ご存知なんですか……!? 確かに家名はレヴィノスですけど……」

 初の女性将軍を輩出した、というだけの情報でその家を当ててしまったことに驚いた。長い間生きていてたくさんのことを知っているとはいえ、すぐに名前が出てくるとは思っていなかった。
 先生は「懐かしいね」なんて口にしながら、釣り糸を垂らしてゆっくりとしゃべり始めた。

「レヴィノス家っていうのは、300年経った今でも帝国時代の書物を探せば出てくるような有名な家なんだ。今は誓央連合にも何人か、レヴィノスの姓を持っている人がいるよ。特にその初の女性将軍……アズリア・レヴィノスというんだけどね、彼女はとてつもない努力家だった。海戦隊の一部隊の隊長をしていたのだけど、失敗をして除隊をまぬがれたはいいけれど僻地へ飛ばされて……、それから将軍へ上り詰めた人なんだ。当時は帝都で彼女の本なんかがよく売れたよ」
「一世風靡した人なんですね……」
「そりゃあ、なんていったって初の女性将軍、だからね。女性軍人の憧れの的にもなったよ」

 あはは、と先生は笑いながら針にかかったものを釣り上げる。「また宝箱かあ……」なんて苦笑している。
 魚が釣れないと言うけれど、抜剣者ゆえ持っている見えない力に対して、魚が逃げてしまっているんじゃないかとすら思ってしまう。

「彼女自身が将軍を目指したのは、自分の家が上級軍人を排出している名門だから、という理由だけではなくて……病弱な弟のために、家を守るためだったんだよ」
「え……」
「名門と言われるのには理由がある。それだけ危険な仕事も多くこなしていたから……彼女の弟は、復讐で召喚呪詛っていう呪いで呪われてしまって、家の中を動きまわることすらできなかった。そんな弟のためにも、自分が軍人になって守らなければいけない、家を支えていかなければいけないと……上級軍人を目指して軍学校に入ったんだ。あ、あとね猫が好きだったんだ。いつも逃げられてたけど」

 笑いながらいうその言葉は、まるで本人を知っているような口ぶりだった。猫が好きだった、いつも逃げられていた……なんて、それを見ていたとでもいうのだろうか。まさか同級生とか? 300年も生きているのだから、本人を知っていてもおかしい話ではないけれど、それにしたって、詳しい。

「ご本人を知ってるような言い方ですね」
「あ……ああ、懐かしくなってつい……。アズリアとは軍学校で首席を争った仲で、おこがましいけど、幼馴染とでもいうのかな……。俺が試験で一位を取っちゃって……それから、ずっと何かと縁があってね」
「……先生の知り合いって、本当にすごい人ばかりなんですね」
「ははは、たまたまだよ」

 つくづく、この抜剣者の知り合いは、本人もさることながら伝説級の人物が多すぎる、と思う。その人達が、今のこの世界を作った人たちなのだとも思うけれど。

「…………レックス!」

 遠くから、先生を呼び捨てで呼ぶ、女性の声。この抜剣者を呼び捨てにするような間柄の人物なんて思い当たらない。総帥だって呼び捨てになんてしていない。この人は敬称に様がついていたっておかしくないような人なのに、と声の方を振り向くと、ミディアムくらいの長さの黒髪の女性の姿があった。クレシアさんと似た服装をしているということは、誓央連合の人だ。

「ははは、君が来るってことは……はあ、もう少し息抜きしてたっていいじゃないか」
「良くない! この間、お前が勝手に抜剣した件で上がうるさいんだ。わざわざ出向いたのだから、納得のいく説明くらいしてほしいものなんだが」
「だからー、そんな議会だのなんだの指示を仰いでたら間に合わないんだってば。それは君だって経験上分かってるでしょう」

 至極自然な会話だった。
 畏怖されるような人と、対等に話をできる女性だなんて見たことも、聞いたこともない。クレシアさんだって先生に振り回されていた。彼女の場合はもう諦めていた、という感じだったけれど。

「ああ、そうだ、アルカくん。紹介するよ、彼女はアズリア・レヴィノス、現在のレヴィノス本家の家督を継いでいる女性で、誓央連合で議長を務めている女性だよ」
「……アズリア、レヴィノス……? え……?」

 かの女性と、同じ名前だ。先生はくすり、と笑みをこぼしてから、説明をすると言わんばかりに人差し指を立てた。

「リィンバウムと、機界、鬼妖界、霊界、幻獣界の四界は輪廻転生の輪で繋がっている……なんて話を聞いたことはないかい?」
「死後の世界が……なんてことは、大家さんのお友達から……まさか」

 ものすごい格好をしていた、あの商人の言っていた言葉。まさか……本当のことだなんて考えたこともなかった。

「ふ、私も話を聞いたときは半信半疑ではあったがな。その輪廻転生の輪は実在する。その証拠が私だ。やっと、25年前にリィンバウムに転生した」
「昔、出会ったのは軍学校に入った時からだったから、それより前のアズリアの小さいころってあんなだったんだなあ、フリルワンピースとか似合うのになんで着ないんだろうなあって会うたびに本当によく思っ……」
「…………レックス」
「待って、アズリアさん待って! その手下ろして! 紫電絶華やめて! 俺ここで気絶したら全部君のせいだからね!?」
「ええい黙れ! 議員が待っているんだぞ!? 気絶させてでも異世界調停機構に連れていく!!!」
「っちょっ……!」

 伝説の抜剣者にも容赦のない突きが見舞われた。

2013/06/05

6月には書き終わっていたのにそのままほっぽられていた