なまえ

 冥土の一件が終わって、暫く経ってから。俺はおっさんに近頃起きている幻獣失踪事件の共同捜査の申し込みにいってこいと言われて、またあいつと組めればいいんだが、なんて淡い期待を抱きながら調停機構に出向いた。

 アルカはまた寝坊でもしたのか、調停機構のロビーで担当管理官に小言を言われている姿を見つけた。管理官もいるしちょうどいい、共同捜査の話を持ちかけようと声を上げようとした直後、俺の声に重なるように「アルカ!」とあいつの名前を呼ぶ声が聞こえた。
 女にしては低い声、けれど男にしては高い声――つまり少年だ、と判断した後、声の方を向くとそこには青髪の鍛冶師がいた。アルカ、とあいつの名前を呼んでいた記憶はないのだが、と思考回路が一度止まる。そうだ、確かマスターと呼んでいたはずだ。

「よかった、ここにいた! あなたに頼みたいことがあっ……て、アベルトさん、あなたもアルカになにかあったんですか?」

 どうやら聞き間違いではないようだ。今、確かにアルカ、とあいつの名前を口にした。

「あれ、アベルト? トルクまでどうしたの?」
「俺は、共同捜査の申し込みに、ちょっとな。幻獣の失踪が続いてて、警察騎士だけじゃ手に負えなくてな」

 出来れば、いろんな言語が分かるアルカと幻獣界の響友をもつルエリィも付けてもらえたら助かる、とそれとなく添える。様々な言語を操れるアルカがいると捜査の時にとても助かる。個人的にも、だが。

 アルカに用があって来たらしいトルクが、幻獣の失踪という言葉を聞いて首を傾げる。もしかして関係することがあったのか? アルカに頼みたいことってのはまさか……?

「あの子がそうだとしたら……。アベルトさん、もしかしたら、その件に関連してるかもしれません」
「迷子の幻獣とかか?」
「幻獣かどうかはわかりませんけど、今、ぼくの作業場に一匹、迷子……にしてはちょっと奇妙な怪我をしている子がいて……動かすわけにもいかなかったのでアンヴィルがついていてくれているんですが」
「奇妙な怪我……可能性は高いね。いこう、アベルト」
「ああ! ……それにしても、お前ら仲よかったんだな」
「……え」
「え、急にどうしたの」
「いや、だって、トルクがお前のこと名前で呼んでるから」
「あ……えっ、と、これは、その、マスターと呼ぶと口を聞いてくれなくてですね……!」

 急にあたふたしはじめるトルクに、思わず笑ってしまう。頬を染めて「笑わないでください!」と言われても、説得力も何もあったもんじゃない。

「アベルト、トルク! 早くいくよ!」
「あ、はい!」
「ああ!」

 そうか、アルカがか。
 俺がどうせ男としては見られていないんだろうと諦めかけてしまっている間に、とられてしまっていたのか。してやられた。

2013/05/25
BGM:Moshimo