変化

 ギフトを止めて、残っていた冥土獣の討伐も数年してやっと落ち着いて。ちょっと騒がしいくらいのいつものセイヴァールに、真紅の鎖がこの街に来る前の平和ボケしていたようなセイヴァールに戻った。
 戻っただけじゃなくて、変化もあった。カゲロウがライジン師範の道場に住み込みで修行をするようになったし、ルエリィが無事に学園を卒業して、正式に調停召喚師になった。それから、ソウケンがシルターンに修行のため帰ってしまったり、カリスが召喚師をやめてノイラーム技研の技術者になったり、シーダが実質家出状態だった実家に顔を見せにいったとか、変わったことはたくさんあった。

 ……目の前にいる彼についていうならば、あっという間に背が伸びてしまって追い越された、というのも変化の一つだろうか。
 出逢った頃は、間違いなく少年だった。とても高い技術を持つ、天才ともいえる若き鍛冶師。今も無心になって剣を打っている。
 彼は、わたしとカゲロウが持つ【導きの光】を研究して、同様の効果を武器に込められないかと打ち続けている。多少効果のある剣が完成していたが、まだ武器としては不十分だと今も研究を続けている。

 ガキン、と折れたような割れたような音がして、トルクが深呼吸のようなため息を吐き出した。床に落ちた刃先を見るに、どうやら失敗してしまったらしい。
 集中が途切れたのか、ふ、と彼がこちらを向いて驚く。来たことも言わずにじっと見ていたのがばれたみたい。

「来ていたなら声をかけてくれれば……」
「邪魔をしちゃ悪いとおもって」
「まったく……あなただったら、邪魔になんかなりませんよ。あ、コーヒーが飲みたいな」
「わたしをみると、真っ先にコーヒー飲みたいって言われるのはどうしてかなあ……」
「あなたの淹れるコーヒーだから飲みたいんですよ」

◯ ◯ ◯

「トルクー、コーヒー淹れたけど……ってお客さん?」

 コーヒーを淹れ終えて渡しにいこうとすると、トルクが誰かとしゃべっているのが聞こえる。声からして少女が二人……といったところか。

「ええ、あなたと同じ調停機構の召喚師の」
「赤い髪、紫の瞳、調停機構の制服……まさか……アルカ先輩!?」
「えっどうしてアルカ先輩がここに……!?」

 異世界調停機構の制服を着ている少女が二人。先輩、って言われてるってことはわたしの後輩ってことだ。会ったことのない子にまで、わたしの名前や容姿を覚えられているなんて思わなかった。

「そんなに驚かれるようなことした記憶ないんだけどなあ……。あ、えっと、昔から武器の調整とかをトルクにお願いしててよく来てるの。普段は営業時間外に来てるから顔を合わせないんだと思うよ」
「あなたの後輩たちからは生ける伝説だって聞いてますよ。学園を出てすぐに調停召喚師になったすごい人だ、あの人みたいになりたいって、あなたに憧れている新人も多いみたいだけど」
「あはは……、それは何年か前に代理で授業持ったときにも言われたなあ」
「まあ、分からなくもないですけどね。……それで、ご用件は」
「あ、はい、あの、杖を強化したくて……」

◯ ◯ ◯

 少女たちの一人が帰り際に「これ、良かったらどうぞ」とパッフルズの箱をわたしに渡して帰っていった。
 きっとこれは、トルクに、と彼女が買ったものだろう。わたしはたまたま今日ここにいただけなのだから。

「トルク、差し入れもらったんだけど……多分これ、あなたにって買ってきたんだろうねあの子。……もしかして、結構ある? こういうこと」
「ない、とは言い切れませんね……。あなたたち以外の調停機構の方や、たまに警察騎士の方とかが来るようになってから、何度か」
「……そっか。ちょっと妬いちゃうなー」
「そうですか……、って、はい!? なんでですか」
「だって、女の子がわざわざ差し入れを買ってからここに来る、なんて……そういうことでしょ」

 そうでもなければ、わざわざ買ってからなんてこない。

「ちょっと油断してたな、ルエリィから聞いてはいたんだけどさ」
「え、ルエリィから……? なにを聞いていたんですか」
「トルクに気のある女の子が増えたという噂」
「な……っ!?」
「昼間に今日来たのも、そういう事を聞いちゃったからだったりして……本当だったし……。だから、ほら、ちょっとやきもち」
「…………」
「ねえ、トルク。まだ、わたしがからかってるって……」
「……思ってなんかいません。あなたがあんまりにもストレートにぶつけてくるから、その、僕がいたたまれないだけで……。あなたのことは、そういう意味でも、好きですから……その、安心しててください。あなたのために剣を作ると決めた時から、僕はあなたのことが好きなんですから」

2013/05/25
BGM:恋はドッグファイト
[FIRST LIVE in アトランティスドーム]

ものすごい疑問だけどトルクの大剣ってどうやって持ち歩いてるの。あきらかにあれ身長より長いじゃない……。