パーソナルスペース

「トルク、背伸びたね」
「成長期ですから」
「いいなあ、成長期」
「いいなあって……あなただって女性としては背の高い方じゃないですか」
「普段ヒールの靴を履いてるから、実はそうでもないんだよ? 靴を脱いだら今のトルクの肩くらいかなあ」

 そういって彼女は屈んで、靴を脱ぐ。よくよくその靴を見てみれば確かに結構な高さの靴だ。こんな靴を履いて街を走り、剣を振るうとは。女性とはすごい生きものだと感心せずにはいられない。

 靴を脱ぎ、揃える。その鮮やかな動作に見惚れたのもつかの間、彼女は近寄って「ほら、ね?」と見上げてくる。たったそれだけなのに、どきり、と心が跳ねた。
 ほんの半年も前くらいまで彼女を見上げるのは自分だったのに、今は、彼女が見上げてくる。しかも、彼女の紫魔石のような色の瞳に、映るような近距離で。
 彼女のその行動に、本人としてはさして意味はないのだろう。

「そういうの、僕以外の男性の前ではやめてください」
「え?」

 なんで?というように首を傾げ、赤い髪が揺れる。ああ、やっぱりこの人わかってない。

「……わかっていないなら、教えてあげます」

 きっと、この人はいまの距離が、普通ではどんな関係の人たちがとる距離なのかなんて知らないんだ。ただ親しい間柄の人たちじゃ、ここまで近づくなんてことはない。
 この距離は、家族か、それか……恋人。そんな間柄じゃなければ、しないような距離なのだ。

 つ、と彼女の頬に手を触れると、くすぐったそうにころころと笑う。なにをするかなんてわかっていないから、こんなふうに笑うのだろう。
 笑って、「ねえ、どうしたの」なんていうその口を塞ぐように、ちゅ、とわざと音を立てて強引に口付ける。多分この人は、そうでもしないとわからないだろうから。
 くぐもった声が聞こえて、もういいだろうと唇を離して彼女の顔を見ると何が起きたのか分からないというような顔をしていた。いつも余裕そうな顔をしているけれど、こういう顔をすることもあるのか。

「っ、と、トルク!? あ、の……っ」
「……わかりました?」
「わかるもなにもなんでいきなり……、あ」

 しばらく、頭の中で混乱していたのだろう。思い当たるように口から漏れた言葉で、理解したのだと合点する。

「あなたはそうやって時折、からかっているのか天然なのかわからない行動をしますけど、振り回される身にもなってもらいたいところですね」
「からかってるとかそんなつもりは……、その、ごめん」
「わかったら、僕以外の男性の前でそういう事はしないでくださいね」
「トルク以外の……?」
「……まあ、僕の前でやったらもれなくさっきと同じことになりますけど、それでもいいならどうぞ、ご自由に」

2013/06/05

イェンファが靴下が違うとかいうけど明らかにアルカは素足だと思う。